薄暗い部屋の天井が、やけに遠く感じる。
灰色と黄色の混ざったような色、外の雨は止んだだろうか。
どうしてこんなことになったのだろう。頭を抱えたい気分だ。



幼い頃、俺は神を呪ったことがある。
大きな声で。
何度も。何度も。
お祖母さまは半狂乱になり、俺に悪魔が取り憑いたのだと大騒ぎした。
叩かれて、今すぐに懺悔室へ行けと怒鳴られた。
それでも俺は撤回などしなかった。
だっておかしいだろう?
俺とお前が一緒になれないなんて。


けれどその時、お母さまが両肩を掴んで、真っ直ぐ俺の目を見ながらこう諭した。

「崇弘くんも地獄に行くことになるわよ」

それは、嫌だった。
あんなに優しくてあったかい奴が地獄に行くなんて、許されないことだと思った。


俺は一度神を呪ったし、撤回なんてする気もさらさらない。
正しいのは俺だ。
神に媚びて向かう天国なんて、何の価値もないと思った。

だが、あいつは違う。
あいつはこれからの人生も、死んでからもずっと、幸せであるべき人間だと思った。
だから俺は自分の心に蓋をして、あいつを正しい道へ導こうと決めた。
たとえ最後に別れることになったとしても。



強くて優しい先輩として、友人として、幼馴染として。
あいつにいつか、素敵な恋人が出来た時には、「良かったな」と微笑んで。
あいつにいつか、可愛い子供が生まれた時には、「おめでとう」と一番に駆けつけて。
時々はプレゼントを持って行って、あいつの家族ごと、みんな愛してやろうと。
どんなに苦しくても、あいつの愛する人間は全て愛してやろうと決めたんだ。


…決めたのに。


ああ、どうしてこいつはこんなに馬鹿なんだ。
俺は一体、何の為に今まで。
全てが台無しだ。

部屋の隅の方に居る、大きな影を見やる。
ガチガチと歯の鳴る音がしている。
…そんなに震えるくらいなら、やめときゃ良かったのにな。馬鹿な奴。
俺の視線にも気がつかず、ただ目を見開いたまま、涙と鼻水を垂れ流している。
きったねーツラだ。
俺がひとつ溜息をつくと、肩がびくりと跳ねた。

何に怯えているんだか。
俺か?
それとも神様か?


「おい」
声を掛けると、焦点の合わない目がようやくこちらを向いた。
自分のしたことが信じられないとでも言うような顔をしている。
お前のやったことなんだぞ、この犯罪者。
おまけに神にまで背いてしまったと来たもんだ。


何と声を掛けようか。
今から懺悔室に叩き込んでも間に合うだろうか。
悪いが、俺の許しか神の許しか、片方しか与えてやれそうにない。



神を呪った俺と、
「地獄に堕ちるぞ!!」と腕を振り解いても
「いいよ」と抱きしめてきたお前、

悪魔が取り憑いてたのは、一体どっちだったんだろうな。
















イギリスは懺悔室ないのかな。(しかし書き直さない

2012.11.25