返ってきた言葉は、あまりにも意外なものであった。


「調子に……乗ら、ないで…下、さい」




日に日に胸を蝕む痛みに耐え切れず、つい、零した。

「もうついて来るな。もう俺の言う事はきかなくていい」

離れたところで痛みが増すだけだと、薄々感付いてはいたが、それでも。
顔を見る度痛むなら、顔を見なければ、あるいは。
そう思ったから。


それを聞いたあいつは相変わらずの顔で、一度首を傾げて、戻してから。

「嫌です」

なんて歯向かうものだから、思わず、きつく睨んで問い掛けた。

本当はとても、嬉しかったのに
ほっとしたのに


「何だ?俺様に逆らうのか?」
思いが声色に融け出ないよう、ゆっくりと。慎重に。


そっと見上げた顔は、やけに冷たく。

「…別に、今まで……跡部さんの、言う事…きいてきた覚えは、ありま…せん」

ぼそぼそと動く唇は、あまりにも予想外な言葉を紡いだ。


口を開けて立ち尽くす俺に、あいつは続けて、言ったのだ。

「俺…は、自分の…やりたい事を、やってる…だけ、です。
調子に……乗ら、ないで…下、さい」

そう言い切ると、口も足も動かない俺から鞄を引ったくり、あいつは珍しく、俺より先に歩き出していった。
輪郭は夕日に溶け、橙色の、見知らぬ姿。
















生意気な樺地。

2009.5.2