ある日の帰り道、前方3メートル先の樺地と跡部をストーカー見守りながら。
「眼鏡!」
忍足「何や」
「ちょっと跡部の服切り裂いてきなさいよ」
忍足「唐突────!!!」
宍戸「っつーかそれ、犯罪だろ。一歩間違ったら警察沙汰だぜ」
「そうね。…でもまあ私には関係ないって言うか」
忍足「ひどっ!!俺ら友達ちゃうの!?一生樺地と跡部を見守ろうて固く誓った仲ちゃうの!?」
「別に見守るのは一人でも出来るしね」
忍足「冷た──!!!」
宍戸「いいからもう、さっさと行って来いよ」
忍足「お前もかい!!!」
「うんうん。よく似合うよ、目出し帽」
宍戸「マジでハマりすぎてて恐えな…」
忍足「…おーきに…にしても何でこんなモン常備しとんねん!!おかしやろ!学生鞄から目出し帽て!!」
「こんな時のためじゃない、備えあれば憂いなしよ。じゃ、健闘を祈る!」
宍戸「頑張れよー」
忍足「…その無責任な応援やめてくれんか…」
目出し帽を装備した忍足は、鋏を手に木陰を飛び出し前方へ走り出した。
樺地「!」
跡部「ん?どうした樺…、!!」
忍足の鋏が跡部のシャツに掛かろうとした、その瞬間。
樺地「ばぁぁぁぁあああああう!!!!」
忍足「いぃぃやぁぁぁぁぁぁ!!!」
美しく弧を描き、忍足の体は甲高い悲鳴と共に遠い空へと消えて行った。
「よし、少し切れ目が入った!ししろ、引き裂いて来て!」
宍戸「俺!?ってまた目出し帽出てきた!!お前いくつ持ってんだよ!!」
「健闘を祈る!」
宍戸「だー!もー!!」
宍戸も目出し帽を装備し、渋々跡部の方へ走り出す。
樺地「怪我…ない、ですか」
跡部「ああ。何だ今の……、!また来やがった!!」
宍戸「気付かれたか…」
宍戸はスピードを活かし、ガードする樺地の横を擦り抜けて 跡部のシャツの切れ目に指を突っ込んだ。
しかし。
跡部「何しやがる!!!」
樺地「い゛いぃぃぃぃぃいい!!!」
宍戸「ぐっっは」
運動部の部長と大男、二人のコンボ技を食らった宍戸は間抜けな声を残し大空へと飛び立った。
しかし作戦通り、跡部のシャツの肩口には派手な裂け目が入った。
跡部「破れちまったな…」
樺地「ウス。…縫い、ます」
樺地はそう言うと鞄から裁縫セットを取り出し、手際よく繕う準備を始めた。
そうしている間に、空の旅を楽しんだ忍足が木陰に帰還する。
忍足「…うぅ…あー…」
「あら、眼鏡。無事だったのね」
忍足「無事ちゃうやろこれ…どう見ても…!木の枝刺さったわ!」
樺地「失礼、します」
跡部「お、おう」
樺地に腕を掴まれ、跡部は僅かにたじろぐ。
樺地「動かないで…下、さい」
跡部「!!」
樺地が耳元でぼそりと喋るとそれは囁きのようになり、跡部の頬は思わず真っ赤に染まった。
「ハッ…!まさかこのまま道路のど真ん中で!?」
忍足「いや、服縫うためやん!!どう考えても!!そう言いつつ真顔で高速連写しとるし!怖いわ!指見えへんわ!!…って、ん?」
忍足が気配を感じ、振り返る。
榊「悪いな、職員会議が長引いてしまった。様子はどうだ」
「あ、会長。あの通りです」
榊「なるほど、良い具合に愛と切なさに満ちているな」
忍足「…ところで監督、堂々と向こう観察せんといてくれまへんか。隠れもせんで仁王立ちで見つめるんやめてくれまへんか」
「大丈夫、会長存在感無いから!」
忍足「いやいやいやテニス顧問の派手なスーツのおっさんやで!?存在感ありまくりやんっちゅーかそれ以前に本人の目の前で失礼なこと言いすぎやで!!」
榊「はっはっは、照れるな」
忍足「褒めてない!!褒めてない!!…もうツッコミが足らんわ!!宍戸ー!宍戸ー帰って来てー!!」
樺地「そんな…綺麗には、直せない、けど…応急処置、で」
跡部「お、おう」
跡部は相変わらず、屈んだ樺地の吐息にときめきが隠せず顔を赤くしたままだ。
身長差ゆえにあまり近くで見ることのない樺地の顔を、肩口を見るふりをしてしげしげと眺める。
ぷつり、ぷつりと針と糸が通る度、露になった跡部の肌は隠されて行く。
「うーん、☆跡部の肩にドキッ☆チラリズム作戦☆だったんだけど…樺地君は他の奴なんかに跡部の身体は見せない!ってタイプだったのね」
忍足「いや、俺ら、毎日のように着替えで見とるで」
「それともあれかしら、欲に流されて服を引き裂くよりもきちんとボタンを外して脱がせたいっていう」
忍足「いや─────!!!伐採せんといて!!自然破壊はんたーい!!」
「うるさい眼鏡」
眼鏡は割れた。
ちょきん、と音を立てて鋏は白い糸を切った。
樺地「…でき、ました」
跡部「あ、ああ。ありがとな、って、これ…」
樺地「? 駄目…です、か?」
跡部の肩には、可愛らしいうさぎさんが寄生していた。
「樺地君…!アップリケ!?」
忍足「かわええなあ!ほらな?二人はメルヘンやねんて!」
「甘いわね眼鏡、うさぎは弱さの象徴でしょ。それを生徒会長部長跡部家御曹司の肩に縫い付けるというこの行為…!!昼は従順に付き従っていても夜は」
忍足「いやあああああああ!!!!!!何その深読み!!!深すぎるわ!!!」
「うるさい眼鏡」
眼鏡は捻られた。
跡部「い、いや。可愛いじゃねーの」
樺地「ウス」
跡部「流石お前だな!」
樺地「ウ、ウス!」
珍しくストレートな跡部の褒め言葉に、樺地はほんのり頬を染めて頷いた。
忍足「ロマンスゲットォォ!!」
「あ、お帰りししろ」
宍戸「お…おう……」
忍足「いや今!今俺ツッコミ待ちやったのに!何でそのタイミングで戻って来んねん!!」
「でもごめんししろ、私今二人を撮影中でそれどころじゃないの」
宍戸「俺の負傷への配慮は無しか!!」
榊「私もだ。あの光景を曲として表すにはどうすべきかを考えている」
宍戸「ああああああむかつく!!!」
後日。
樺地「?……跡部、さん」
跡部「アーン?」
樺地「その、シャツ…前に、縫った…」
跡部「あ?ああ、た、たまたま他のシャツが洗濯中でな。仕方なくこれを着て来たんだ。…たまたまだぞ!仕方なくだからな!!」
忍足「気に入っとる…!」
「さすが跡部…!」
9月の樺跡樺プチオンリーにて配布した支援会ペーパーをすこーーしだけ変更して載せてみました。
ペーパーではこの下にイメージ絵?が付いていました。
紙媒体では主人公の名前が出せないのでちょっと苦労しました。
謳い文句は
「忍足をはじめとする愉快な氷帝の仲間達と共に、樺地と跡部の関係をそっと応援する
流血あり眼鏡破壊あり悪徳勧誘ありの物語」。ひどい。
2008.12.14