「スケスケだぜ!!」
「…相変わらず派手やなぁ跡部は」
「でも高校生相手に凄いですよ!ねえ宍戸さ………」
「うん、宍戸おらんからな。気付いて膝抱えるんやめような。まあ俺も岳人おらんで寂し………岳人ーーー」
「マジマジうっとうC」
突然の試合から数日。
芥川・忍足・鳳は、チームメイトを脱落させてしまったことに複雑な気持ちを抱いたまま、今は跡部の試合を眺めていた。
「でもまあ…なんや、元気になって良かったな」
「そうですね。一時期、くぼべさんみたいになってましたしね」
「俺、『お前は何も悪くねえ…!これは必要なことなんだ…お前は…お前は何も…っ!』って目の前で泣かれたC」
「樺地も、跡部部長に連絡くらいしてあげたらいいのに…」
「跡部も意地張って連絡せーへんしなあ」
樺地が脱落したことで荒れ狂っていた跡部の心を、上手くテニスに昇華させたのはこの三人の力と言っても過言ではない。
「跡部王国」
「キャーアトベサマー」
「おーおー、今日も人気者やなー」
「フフフフ…ハァーッハッハ!」
「キャーカッコイイーキャー」
「まあ確かに凄いんは分かるけどなあ…」
「ちょっと騒ぎすぎですよね。俺らが慣れちゃったのかもしれませんけど」
「キャーステキーカガヤケホクロー」
「…いや、ちょっと待ってください。女子なんて居ましたっけ、この合宿」
「キャーモゲローホクロモゲロー」
「何や棒読みやし……の前に、声に聞き覚えが」
忍足が首を巡らすと、見覚えのある影がサッと動いた。
「……ェ…」
「えっ!どこですか!?」
忍足が大きく溜め息をつく。
「あそこや、あの、鬼とかいう厳つい高校生。の後ろ」
「キャーホクロースベテノアイヲムネニー」
「…鬼ちゃんの顔からの声が出てるの、なんかきもちわるいC…」
「…凄い脂汗かいてませんか、あの人」
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「いつから居ったんや、さん…」
「ちゃんと大人しく外に居たよ!部屋の管理とかしてるおじさんに、二人の映像を生中継してもらって」
「既に施設の人も何人か洗脳済みってことですか…」
「でも漬物みたいな髪の人がフェンスを破ってくれたから。入っちゃった」
「ちゃった☆で済まんやろ!見つかったらまずいやんか」
「壁男と会長も居ます」
「あいつらまで…」
「毎晩パジャマパーティーしてたみたい」
「随分楽しんどるな!!」
***********************
「…何でこないええ部屋使とるんや、オッサンは…」
「企業秘密だ」
「さすが会長、やるねー」
数日前から榊が使用していた広い部屋には、『臨時会議室』という小さな看板が掲げられていた。
「話を戻すぞ。…本来我々は、跡部と樺地を見守ることが目的なのだが…残念ながら、今樺地は中継が難しい場所に居るようでな」
「どうも、携帯も繋がらないみたいでねー」
「…??どういうことや?氷帝帰っとるんとちゃうの?」
「あれ、言ってなかった?今、負け組は負け組で特訓中よ」
「えっ……宍戸さんもですか!!?」
「うん」
「岳人も?!」
「ああ」
「樺ちゃんマジマジ特訓中!?よかったー!!」
「ししどさああああああん」
「がくとおおおおおおおお」
「うるさっ」
「温度差がせつないわぁぁがくとぉお」
「なあ、跡部にも教えてあげたE!」
「駄目よ、こんなに美味しい展開は無いのに」
「その通りやけどなんかひどい!」
「樺地君が頑張って、自分の力で強くなった時に会ってこその喜びでしょ」
「言い直したな今、さっきのが本音やろ…」
「という訳だ。今の話は口外厳禁、いいな。」
「はいっ」
「わかったC」
「しゃーないなあ…」
「暫くは跡部の様子を伺うしかないわね。何かあれば連絡して」
「三時間後に第5回パジャマパーティーを行う。そちらも参加してよし!交流を深めるのが目的だ」
「遠慮します」
「あ、俺も」
「俺も」
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そして、事件は早朝、まだ陽が昇る前に起こった。
第5回パジャマパーティー(本日のテーマ:ポップコーンを抱えて名作洋画DVDを観る)(「あ、それなら俺も」と忍足も参加)が行われている臨時会議室に、が血相を変えて飛び込んできた。
「会長大変です!!負け組との連絡が取れたんですけどうわっオッサンと眼鏡のパジャマ姿きつっとにかく大変なんです!!」
「どうした」
「今、間で何か聞こえたような気がするけど…まあええわ。どないしたん?」
「これ!見て下さい」
が差し出した携帯の画面――宍戸が送ってきたという写真を見て、榊と滝は絶句した。忍足は榊が邪魔で画面が見えていない。
「これ…樺地か…?」
その画面には、白い髪の男と、その後ろに佇む樺地の姿が映っていた。
「宍戸さんと連絡が取れたんですか!!?羨ましい!!」
「一分おきにメール送るようにしてたからね」
「ああ…俺、三十分おきにしか送ってませんでした…まだまだですね…」
「怖っ!!よう返事来たな!」
「これだけ騒がしいのに、ジロー…寝るねー…」
鳳と芥川も召集され、皆での携帯を囲む。
「今、こっちに戻って来てるらしいの。だから電波が入ったのね…お昼までには着くって」
「本当ですか!?ししどさあああああああん」
「がくとおおおおおおおお痛ッ何で俺だけぶつんや!?」
「これを跡部が見たらかなりのショックだろうねー」
「下手したら身体的な症状出すかも分からんで。ほんまに」
「状況を把握するまで、暫くは会わせない方が良さそうだな」
「…んじゃ、二手に別れて…それとなく二人を会わせないように仕向けるC…」
「ジロー、お前ほんまに寝とってそれ言うとんのやったら凄いことやで」
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明け方の事件から、四・五時間が経った頃。
は再び携帯を持って会員達のもとへ走り寄り、フェンスの裏から話し掛けた。
「ししろから連絡が来た!もう少しらしいから、私はそっちに向かうわね」
「俺には連絡くれてないのに…!俺も行きます!」
「駄目だ、鳳。本来居るはずのお前が行くと怪しまれる」
「監督…!俺は…俺はこの二週間、宍戸さんのことを血が滲むほど考えてきました!…俺は落ちても…かまいませ「行くで鳳」
引きずられていく鳳を見送り、榊・滝・は負け組一行との合流を目指した。
***********************
更に一時間後。
「……何だお前ら、さっきからちょこまかと鬱陶しい」
「ま、まあまあまあ!」
「なんでもないC」
勝ち組メンバーは跡部を取り囲み、負け組の帰還を待っていた。
「そうやで、ただ仲良しなだけやんか」
「うぜぇ」
「あ、そういうのはうざいです忍足先輩」
「うざE」
「まさかの裏切り!!」
その時。
遠くで誰かが叫んだ。
「おい!!」
「負け組が帰ってきたぞ!」
「何っ…」
思わず顔を上げ、声の出所を振り返る跡部。
の前に立ち塞がる、鳳と忍足。
「なっ、何だお前ら!!」
「まあまあまあ」
「まあまあまあまあ」
「あとべ!向こうからいい匂いがするC!!」
「アーン?!今それどころじゃ……ックソ!!どけ!!」
「短太郎と眼鏡の無駄なでかさがやっと役に立ったわね」
「やるねー」
「…二人とも、俺の後ろに隠れるのやめてもらえませんか」
「マジ…何で居るんだよお前ら」
「監督は木の陰からはみ出してるし…クソクソ意味わかんねー」
「よし、樺地君をあっちへ隠して!」
負け組メンバーが 久し振りに見る合宿所に気を取られている隙を狙い、巨体を無理矢理物陰に押し込めた。
「…アーン?樺地が居ねぇじゃねえか……」
「そ、そうですネー」
「多分…あれや、ちょうちょ追い掛けとって遅れとるんや」
「…おしたり、今、秋だC」
「細かいこと気にせんでええねん!」
「さっきから何なんだお前ら」
「まあまあまあ」
***********************
「あっ跡部!飛行機や!」
「あとべ、おぶってほC〜」
「跡部部長、踊って下さい!!部長のステップが見たいです!!」
「跡部、お好み焼きが飛んでるで!!」
「次はサンバでお願いします!アトケンサンバ再びです!!」
「あと………zzzz」
「ジローちゃん寝たらあかーーーん!!」
「跡部部長、お風呂行きませんか!!宍戸さんが今から入るらしいんで、俺、入りたいです!!」
「あとべ、おふろあったか…E…」
「風呂で寝たらあかーーーーーーん!!!」
…などなど。
主に勝ち組の奮闘により、跡部と樺地の再会は引き延ばしに延ばされた。
***********************
そして、夜も深まった頃。
は臨時会議室で大きな溜め息をついた。
「…困ったわね」
「なんや、まだ掴めてないんか?さんやのに?あっ痛い痛い痛い痛いすんませんすんません」
「なかなか口を割ってくれないのよ、樺地君。無口なだけに手強いわ…二年二人やECCに頼んでみたんだけど、全部ウスで済まされちゃって」
「あー、オッサ…監督はあかんかったんか?」
「来てるのがバレたらまずいでしょ。さすがのオッサ…会長でも、この合宿ではさほど権力がないみたいで…。使えないわね」
「そうか…」
ちなみに、これらの会話は全て樺地の部屋と跡部の部屋の前に設置されたカメラの映像から微塵も目を逸らさずに繰り広げられている。
「…っていうか、あの綿埃が邪魔してくるのよ!樺地君だけ連れて来て話したいのに、皆適当にあしらわれちゃって」
「綿……?ああ、仁王やな。樺地も騙されてしもうたんかなぁ…」
「ハッ……純粋につけこまれた樺地君があんなことやこんなことに?!!「いややー!!いややー!!!」
「………」
「あれっ眼鏡割られん」
「騒いだら見つかるじゃない。静かにしてくれる?」
「あ、はい」
「っていうかあんたも長時間姿が見えなかったら怪しまれるでしょ。帰って」
「冷たっ!!」
***********************
それから30分後。
は微動だにせずモニターにかじりついていた。
「…あ、樺地君…お茶の準備かな?ししろに見張ってもらおう」
モニターの中にポットを持った樺地の姿を確認したは、携帯を取り出し履歴から慣れた番号を呼び出した。
(ちなみに発信履歴のみ、着信があったことは一度もない)
「………」
「………」
「………」
「………」
「出ない!!!」
携帯を床に叩き付けようとして思い止まる。
「いけないいけない、大事な画像がたくさん入ってるんだから…」
続いて向日や日吉、鳳、芥川、渋々忍足にも電話を掛けたが結果は同じだった。
「…何よもう……!さっきから妙に廊下が騒がしいし…こんな時に限ってオッサンと壁男はパジャマパーティーのお菓子買いに行ってるし!」
何とか上手く紛れて近付けないものか、とが頭を捻っていると、画面に再び樺地の姿が映った。
そして、もう一人。
「あっ……!跡部!!!ちょっ、」
の喉から悲鳴に近い声が響いた、その瞬間。
画面の中の跡部が、静かに崩れ落ちた――――
To be continued...
続きません。
2012.2.4