注意
オリジナル一年女子がちょっと出ます。
「バレンタインやね」
「そうね」
「そうだな」
「…今年もええバレンタインになるとええな」
「……ああ…まあ」
「? 今年も??」
廊下に座り込んで休み時間の跡部を観察中。
通り掛かる女子たちが、時々私達にお菓子をくれる。
大半は跡部へチョコを持ってきたついでなんだけれど、小腹が空いているのでとてもありがたい。
お礼に五円チョコを配っていたら、すすろ達にあげる予定だったぶんが無くなってしまった。眼鏡は何故か泣いていた。
「跡部、特に動きないね。樺地君も来ないし」
「そうだな」
「そわそわはしとるみたいやけど」
「貧乏揺すりしてるぜ」
「…あ、自分が貧乏揺すりしてるって気付いた」
「急にリズム刻み出したな」
「それで誤魔化せると思っとるんか」
さっき貰ったウエハースを開けたところで、予鈴が鳴った。
「おっと、戻らんと」
「じゃあ、また昼休みにね!」
手を振って、私達はそれぞれの教室へと戻って行った。
…これから起こる事件のことなど、この時は知りもせず。
「やっばいもうこんな時間!!」
昼休みのチャイムが鳴ってから、もう3分も経っている。
なんでこんな大事な日に限って授業が伸びるのよ!!小林のバカ!!!
あとで会長にチクっとかないと!
急いで跡部の教室の方へ向かうと、眼鏡(と、眼鏡に捕まったらしいすすろ)の姿があった。
「おお、遅かったな」
「小林許さない」
「あ、ああ…俺んとこもちょっと伸びてしもうてな、今来たんやけど」
眼鏡が歩きながら指差した先―――教室の中を見ると、そこにはすでに跡部の姿はなかった。
「もうほんと小林許さない!!行くよ眼鏡!すすろ!!」
「中庭か樺地の教室か…どっちやろな」
とりあえず階段へ向かって走っていると、向こうから黄色のふわふわ頭が走ってきた。
血相を変えて、手をぶんぶん振り回している。
「大変だC――――――――!!!!!」
…多分、こいつの言う『大変』は大したことではないと思う。
実際この間もこんな感じで寄ってきて、話を聞いてみれば『ちょーこえー夢みたC!!!監督が実は43歳じゃなくて45歳だったって夢!!!マジマジスッゲーおそろC!!!』と、心底どうでもいい内容だった。
だから今回は多分、会長が実は42歳だったとかそういう……
「跡部が飛び降りジサツしようとしてるC!!!!!!」
「「「た、大変だーーーーーー!!!???」」」
「二階の!端の方!!」
「つーかジローお前、跡部そのまま置いてきたのか!?」
「違うC!たまたま通りかかったひよしが止めてくれてる!!」
「ほんまに運のない子やな日吉は…」
急いで下の階に降りてみると、窓のまわりに小さな人だかりができていた。
その中心には窓枠を乗り越えようとする跡部と、跡部を羽交い締めにするぴよすの姿。
「おい跡部!!何やってんだよ!!」
「駄目よ跡部!飛び降りは屋上からじゃないとドラマ性に欠ける!!」
「あかんて跡部、二階から飛び降りたくらいじゃ人間死なんで!!」
「なんで死なそうとしてるんですか!!」
「大丈夫、跡部なら屋上から飛び降りたぐらいじゃ死なないわよ!」
「何ですかその根拠のない自信!!っていうか、あんたらも止めてくだ、さい、よ!!」
ぴよすは必死で踏ん張っているけれど、うつろな目をした跡部に少しずつ引きずられて行く。
「よし日吉!今や!峰打ちや!!」
「マジマジみねうち!!?かっこE!!!」
「バッ…無茶言わないで下さいよ!!峰打ちって結構危険なんですからね!!!」
「大丈夫、跡部なら死なないって!」
「だから何なんですかその根拠のない自信!!!」
誰も助けてくれないことを悟ったぴよすは舌打ちすると、さっと足を上げ、跡部の足をすくい取った。
「マジマジ!!あしばらい!!!」
ゴトンと鈍い音が響く。
どうやら二人とも受け身が取れず、跡部は頭を強打したらしい。
……まあ、大丈夫だろう。跡部だし。
「めっちゃ頭抱えとるやん跡部」
「そんなに頭を痛めて思い悩むほどのことが…!?」
「…それは物理的に痛いせいもあると思いますけどね。…忍足さん、ちょっとベルト貸して下さい」
ぴよすは溜息をつきながら、自分のスラックスのベルトを外した。
「えっ何!!?突然のストリップ!!!??」
「…あんた馬鹿なんですか?馬鹿なら黙れ」
「あれっそれ先輩に対する態度やろか!!??」
「今黙れって言いましたよね?聞こえませんでしたか」
「えっひどい!!ひどいでこの子!!」
ぴよすは自分のベルトでてきぱきと跡部の両足を縛っていく。
「腕も縛るんでベルト貸せっつってんですよ」
「あー…慇懃無礼ってこういうことなんやね…」
周りのギャラリーが『下剋上だ…』『下剋上よ…』と囁きあいながら、跡部が日吉の手によって縛られていく光景を写メっている。
「ねえぴよす、何があったの?」
「さあ…俺が通り掛かった時にはすでに窓枠に足を掛けてたんで。それまでの経緯はさっぱり」
床にごろりと転がされた跡部は、いつの間にかすすろとECCのベルトによって目隠しと猿轡までされていた。ギャラリー大喜びだ。
「ジローも何も見てないんだよな?」
「ん〜。俺もひよしと同じくらいに通り掛かったから」
ふと、ばたばたと足音が聞こえた。
「ししどさーーーーーーーん!!!大変ですーーーーーーー!!!!!」
短太郎だ。ぶんぶんと手を振りながら駆けてくるには大きい。
…こいつもこの間、こんな風に走ってきたから何事かと思えば『宍戸さんの机が!!1cm動いてたんです!!!誰の仕業でしょうか!!!』と、どうでもいい…というか、恐ろしい報告をしてきたのだ。
どうせ今回は、すすろの椅子が誰かに動かされてたとかそういう…
「樺地がモテまくってるんです!!!!!!」
「「「た、大変だーーーーーー!!!???」」」
「…原因はこれか…」
樺地君の教室の前で、私達は頭を抱えた。
…ちなみに跡部は、騒ぎを聞きつけてやって来た赤味噌のベルトも使って、今は柱にくくりつけられている。
面白さを重視した結果、両腕を広げ、十字架に磔にされたキリスト風になった。
撮影の為にギャラリーが群がり、順番待ちの列は階下までのびているようだ。
「クソクソ樺地の奴、ちょーモテてんじゃん!!」
「せやなぁ」
「一クラス分くらいの人数いるよね、これ」
昼休みももう半分近くが過ぎたというのに、樺地君はまだ自分の教室に居る。
教室から出ようにも出られないのだろう、さっきから同じ場所でぐるぐる回っている。
その周りには、樺地君を取り囲むようにして人が集まっていた。――チョコを持った女子ばかりが。
「皆ようやく樺地の魅力に気付いたみたいだねー」
先程ダッシュで駆けつけてきたばかりの壁男が呟く。息が荒くて血眼だ。怖い。
授業終わりに先生に用事を押しつけられた上、世間話に巻き込まれていたらしい。これも後で会長に報告しておかないと。
「…でもこれ、モテてるっつーか義理なんじゃね?」
「うわーモテないすすろの僻みこわーい」
「こわーい」
「るっせえよ!!」
「んあっ…なんで俺だけ蹴られるん!?」
「俺も正直、最初は義理かなって思ったんですけど…さっき、樺地にチョコを渡してた女子グループに訊いてみたら、全員本命だって」
「マジ?樺ちゃんスッゲーじゃん!!モテ期とーらい!!!」
「樺地は確かに優しいし強いし器用だし、モテるだけの価値はあると思うんですけどね。ねえ宍戸さん」
「まーなあ。でも去年はここまで貰ってなかったよな?」
「短期間でそないにフラグを立てるようなこと、何かやったんやろか、樺地」
「少なくとも俺のクラスでは何も聞いてませんけどね」
「あとはー…跡部宛てのを預けられてるとか?」
「それは去年から禁止されただろ!『バレンタイン専用跡部BOXに入れるように』って」
「あーそっか…」
『バレンタイン専用跡部BOX』という名前がついているけれど、あれは実質、部屋だ。
ポストのような小窓からチョコを入れ、夕方に業者が回収して行くことになっているのだが、去年誤ってドアを開けた会長がチョコの山に埋まり、救助の為にレスキュー隊が呼ばれたという。
ちなみに日常的なラブレター・プレゼント類を入れる『跡部BOX』も存在する。
「樺地を通じて跡部部長に近付こうとか、そういうろくでもない輩じゃないんですか」
「この人数だし、皆が皆そんな作戦っていうのは考えづらいんじゃないかなあ…」
ああでもないこうでもない、と皆で話し合っていると、ほんのり頬を染めた女の子が教室から出て来た。生徒会の子だったかな…何度か見掛けたことがある。多分一年生だったはず。
「ねえ、あなたも樺地君にチョコあげにきたの?」
「えっ、あ、はいっ」
テニス部のレギュラー陣がずらりと揃っていることに気付いたその子は、ぴっと姿勢を正した。
「…本命?」
「…っ」
首を傾げて尋ねると、顔を赤くして俯いてしまった。…ということは、本命か。
眼鏡が『可愛えお嬢ちゃんやな』と言いそうな気配がしたので、つま先を踏んで黙らせた。
「樺地君すっごいモテてるみたいだけど、何か切っ掛けとかあったのかな?」
警戒させないように、とびきりの笑顔を作ってみせる。
すすろが『忍足ほどじゃねーけど、も相当胡散臭いよな…』と呟いたのが聞こえたので、つま先を踏んで黙らせた。
もじもじしながら、一年女子が口を開き掛けたその瞬間。
「ウ゛ーーーーーーーーー」
「うわあああ跡部!!!びっくりした!!」
再び両腕を縛られ、目隠し猿轡をされたままの跡部が現れた。すごく怖い。
足も縛られているので、ぴょんぴょん跳びはねている。すごく怖い。
「磔にしてたベルト、どうしたんだよ!?」
「私が外した」
「「監督!!」」
「会長、遅かったですね」
「ああ。…聞いていないか?午前中の休み時間、バレンタイン跡部BOXがついに壊れてな。その片付けをしていた」
「え、壊れるって、どういう」
「チョコの数が多すぎてドアが壊れて、雪崩が起きたそうだ」
「マジかよ!!」
「年々増えすぎやろ、チョコの量…どないなっとんねんほんまに」
「ウ゛ゥ……ウ゛―――…」
ベルトで色々とぐるぐる巻きにされている跡部は、樺地君にチョコを渡した一年女子に向かって唸っている。
よくよく見ると、ベルトループから血走った青い両目が覗いている。すごく怖い。
「ウ゛ーーーーーーーーー」
一年女子は涙目で頭を下げると、廊下の向こうへ走り去って行ってしまった。……トラウマにならないといいけど…。
「…おい跡部、やめてやれよ…唸ってるだけで何言ってんだか分かんねーけどさ」
「そーだぜ、樺地がちやほやされてんのが気に入らねーのか?」
「自分よりモテる人間が現れやしないか、怖いんでしょう」
「ちゃうちゃう、樺地のこと好きな女子が居るんが許せんのやベフン!!!「ウ゛ーーーーーーーーーー!!!!!」
跡部は縛られたまま高く跳び上がり、眼鏡の脇腹に両足で蹴りを入れた。
「何たって飛び降りようとしてたくらいだもんね…」
「跡部、結構打たれ弱いからねー」
「…せやけど、よーに考えてみいや跡部ベフン!!!「ウ゛ーーーーーーーーーー!!!!!」
今度は顔面に蹴りが入った。脅威の跳躍力だ。眼鏡は割れた。
「いった……話くらい聞けや!!お前いっつもモテまくっとるやろが!!十分おあいこやろ!!」
「そうだC!樺ちゃんだってモテたってEじゃん!!!」
「そうだそうだ!!」
「いくら好きだからって、いつまでも自分だけのものだとは限らないのよ!!!」
「さあ今こそ立ち上がる時だ跡部!!!信じる道を行ってよし!!!」
やんややんやと皆に盛り立てられた跡部は、ベルトの穴越しにこちらを見下ろしてくる。改めて、すごく怖い。
「…跡部。樺地君だって、もしかしたら今までそんな気持ちで跡部のこと見てきたのかもしれないよ?」
そう語りかけると、跡部ははっとした顔をして(大半はベルトに隠れてよく分からなかったけど)唸るのをやめた。
ようやくベルトから解放された跡部は、この短時間で少し痩せたように見えた。
飛び降りこそやめたものの、時々「俺様は貝になりたい」「なるほどシェルフィッシュじゃねーの」などと奇妙な発言を繰り返している。
「樺地君、まだ囲まれてるみたいね…」
「大変やなー。もう昼休み終わってまうで」
ぴよすと短太郎、すすろ、壁男と会長は樺地君の教室前に残って、様子を窺っている。
私達はというと、ふらりと歩き出した跡部の後を追い、録画機器を持って一階の靴箱の近くまで来ていた。
「確かこの辺りだったよねー、跡部BOXって」
「そーだな…ん?」
赤味噌の声につられてふと視線を移すと、ドア(補修済み)の前に女の子が佇んでいた。
「…あなた、さっきの」
樺地君の教室に居た一年女子だ。
跡部から殺気を感じたけれど、眼鏡が間に割って入って遮った。無駄な身長が活かされる、数少ない機会だ。
「ここ、跡部BOXだよね。…チョコ入れに来たの?」
「あ…え、えっと……」
その子の手には、小ぶりな可愛らしい箱が握られている。
すっかり怯えきっていて気の毒だ。…まあ、無理もないけど…
「すまんなあ、怯えんで大丈夫やで。跡部は俺らがしっかり抑えるし痛い痛い痛い痛い跡部俺の後頭部に氷柱刺すんやめ痛い痛い痛い」
「……午前中に、ここで雪崩があって」
「あー、そうらしいな。監督から聞いたぜ!」
「はい。…私、いつも生徒会でお世話になっているから、跡部会長にチョコを…と思って。
私の前に何人か並んでいる人が居たので、その人達が入れ終わるのを待ってたんですけど……その時にドアが壊れて…、埋まったんです。チョコの山に」
「おお、大変やったなあ」
「去年はレスキュー騒ぎまで起こったもんね」
「…それで……その」
一年女子の頬がぽっと染まる。
「ああ…なるほどね」
「?? なんだ?分かったのか?」
「そこに樺地君が通り掛かって助けてくれた、と」
「……はい」
「あーそら惚れるわー痛い痛い痛い跡部俺の後頭部に氷柱刺しては砕き刺しては砕きするんやめ痛い痛い痛い」
「マジマジ樺ちゃんかっこE!!じゃー樺ちゃんの教室に居た他の女の子たちもそう?」
「多分そうだと思います…教室移動のクラスが結構あったみたいだから、実際巻き込まれたわけじゃなくて、近くでその様子を見てただけの人も居るみたいですけど」
「で、改めて跡部にチョコを、ってことね」
「は、はい。…それに、素敵な思い出になったので…きっかけになったこのBOXに、その…お礼というか…そういう思いも…」
「やったやん跡部、義理チョコゲットやで痛い痛い痛い痛い殴るんやめて!!さすがに殴るんはやめて!!!暴力反対!!!」
「おい、メス猫」
眼鏡を押し退け、跡部は一年女子を見下ろす。
「は、はいっ!?」
「お、おい跡部、暴力はダメだぜ??」
「…これは、義理チョコだな?」
「は……はい…すみません」
「跡部目の前にして義理ですって言い切る女子、初めて見たわ…」
「義理でも『ファンです!』とか言うて渡してきよったもんなあ、大抵」
「じゃあ、貰ってやろうじゃねえの。ホワイトデーを楽しみにしていやがれ」
「なんか言い回しが怖いよ跡部」
「犯罪予告みたいやな…」
ん?ちょっと待て。
「『じゃあ』ってどういうこと?」
「……本命は、返す」
「えっ、それマジで言ってんのか跡部!?」
「お前それ…モテへん奴への嫌がらせとしか思えんで」
「ししどが僻んじゃうC!!」
「なになに跡部??好きな人でもできたの???」
ニヤニヤしながら白々しく尋ねると、跡部の顔が強張った。
「おお、なんやなんや?自分に本命寄越した子全員フるほど好きな相手がンアアアーーーーーーッ!!!!!!!!!」
目がー!目がー!と床でのた打ち回る眼鏡(破壊済み)を見て、一年女子はドン引きしている。つくづく可哀相だ。わざわざ跡部に義理チョコを贈るほどいい子なのに。
「…お前ら、本命と義理を分ける作業を手伝え。礼は弾んでやる」
跡部はそう言い放つと、扉に近付いた。
「えっ、俺らかよ!!?」
「…っていうか跡部!!そこ、開けちゃ駄目だって!!!」
「皆逃げろーーーーー!!!」
ゴゴゴ…という低い音が響くと同時に、私は目の前の一年女子の腕を引いて、とにかく走った。
「…みんな、無事…?」
そっと顔を上げると、隣には一年女子、その少し向こうに赤味噌とECCが倒れていた。
「大丈夫?」
「は、はい」
一年女子は少しおでこを擦りむいたみたいだ。少しでも遠くに逃げようと思って、私がスライディングしたせいなんだけど。
「あとべが!いねーC!!!」
先程まで居た場所を振り返るが、そこはもはやただのチョコの山と化していた。
「跡部…何だかんだで俺…お前のこと、結構嫌いじゃなかったぜ…!」
赤味噌がうっうっと嘆いてみせるが、生憎今は誰もツッコミが居ない。
「跡部!大丈夫…じゃないだろうけど、どこにいるの!?返事できる!?」
「…だれか…俺のことも心配してや……」
チョコの山の一部が、僅かに動いた。
「侑士!!生きてたのか!!」
「なんで…死んだこと前提みたいな……いやでもこれほんま…はよ出してくれんと死ぬかも分からんで…」
「跡部の声しないじゃない、大丈夫!?」
「あれっなんでさん俺のことスルーなん?」
「……ククク……」
「!?」
「フフフ、ファーッハッハッハ!!…なるほどな…このまま…一生を終えるってのも案外悪くねえかもしれねーな…」
「やべえ、跡部がぶっ壊れた!!」
「溢れるほどの愛情に囲まれながら…欲しいものは手に入らねーのさ…滑稽だよな…なあ樺地…」
「うん、それすすろが聞いたら僻み通り越して泣いちゃうからね!!?」
「はやく助けないとなんかいろいろやばいC!!!」
その時、階段の方から物凄い数の足音が聞こえて来た。
「ばぁぁぁぁう!!!!!!」
「「「か、樺地(君)!!!」」」
助かった!
「!こっちどうなって……ってうっわ、また雪崩たのか!?これ!!」
「すすろ!跡部が埋まっちゃって死にそうなの!!!身体的にも精神的にも!!!」
「なんかよく分かんねーけど激ヤベェな!!」
「やばいねー!」
「さっき片付けたばかりなのだが…」
「跡部…さん…!」
樺地君はようやく女子達から逃げて来たらしい。…まだ数人ついてきてるけど。
お昼ご飯の約束をすっぽかしてしまって、跡部が怒ってるとでも思っているんだろう。
「…フフフ……いいんだ樺地…俺様はもう…チョコの底で物言わぬ貝になりたい…」
「激ヤベェな!!!」
「やばいねー!!」
「どうしてこんなになるまで放っといたんですか!!おいバケモン、早く部長を引っ張り出してやれ!!」
「ウス…!」
「あ、樺地、跡部の次でええから、俺も助けてくれると嬉しいな…」
「うるさいぞ忍足」
「ええっ監督まで教え子に対してその対応なん!!??俺死にそうなんやけど!!!」
「うるさいですよ忍足先輩!今、世界の平和が樺地の手に掛かってるんですから!!!」
「後輩までひどい!!!」
樺地君はチョコの山に近付き、跡部が埋まっている位置を見定める。
そして次の瞬間、躊躇わずチョコの山に腕を突っ込んだ。
「…跡部…さん…」
「………俺様は…貝になったのだ…」
「めんどくさいなこの人は本当に!!死にますよ!!?」
ぴよすがイライラしながら、八つ当たりする眼鏡が居ないのでとりあえず会長の足を踏みしだいている。
「…跡部さん、もう少し…届き…ません……腕を…少しだけ…」
「………」
「跡部さん…」
「………」
「…跡部さん…死んだら…嫌、です……」
「…かばじ……」
「渡したい物が、あるん…です…」
「……」
「がんばって…作った…んです…」
樺地君の瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。
――――その瞬間、辺り一面が黄金に輝いた!!!!(ような気がする)
「ククク…フフフ……」
「おお、跡部復活か!?」
「魔王みたいになってるぜ!!激ヤベェな!!!」
「ファァーーーーッハッハッハァァァァーーーーーーーーー!!!!!!!」
炎を纏った(ように見える)跡部は、片手を突き上げ、チョコの山から飛び出してきた!!!
「マジマジしょーりゅーけん!!!!カッコE!!!!!」
「やるねー!!」
「バケモンの助けいらなかったじゃないですか!!!!」
樺地君の目の前に着地した跡部は、いつもの輝きを取り戻していた。
その二人の上に、飛び散ったチョコが降り注ぐ。
「ロマンチックね…!」
「箱とか缶とか降ってきてるけどな」
「これが…世界平和の光なんですね宍戸さん…!俺、なんか目頭が熱く」
「箱とか缶とか降ってきてるけどな」
「何だよ、随分待たせたじゃねぇの?アーン?」
「ウス…すみま…せん…」
樺地君が、そっと跡部に小さな袋を差し出す。
「…よかったら…食べて…下さい」
「…フフフ、ファーッハッハッハ!!!!」
周りから、じわじわと拍手が起こる。
気がつけば樺地君を追い掛けてきた女子達も拍手をしている。
一年女子も拍手をしている。
「おめでとう跡部!!」
「おめでとう!!」
「感動を!!ありがとうございます!!」
「お、おう、まあ生きててよかったな!」
「何だこれ」
「よかったねあとべ!!!」
「生きててよかったねー!跡部!!」
「何なんですかこれ……」
沢山の祝福に包まれて、五時間目の予鈴が鳴った。
「…あ、巻き込んでごめんね?お昼ご飯食いっぱぐれちゃったし…」
拍手を続ける一年女子に声を掛けると、その子はふるふると首を振った。
「い、いいえ!元はと言えば、私も原因っぽいですし」
「ううん、悪いのは全部跡部よ」
「……あの、その、」
「?」
「これっ!!良かったら、受け取ってくださいっ!!!」
一年女子はまだ大事に握っていたチョコの箱を私に押しつけて立ち上がった。
「はっ!?えっ、これ跡部宛てのじゃないの!!?ちょっと!!」
「雪崩た時庇ってくれたの…すっごく、嬉しかったです!!」
ええええええーーーーーー…???!!
走り去る一年女子の姿に思わず口を開けていると、壁男に肩を叩かれた。
「やるねーさん、これだけ男キャラが居るのにモブ女子と百合フラグかぁ」
「顔真っ赤でしたよ、今の子!本命なんて宍戸さんも貰ってないのに!!すごいです!!」
「流れ弾やめろ!!!クソッ!!!」
…と、とりあえずこの件は後で考えるとして。
「樺地、俺様は…今年は、本命チョコは受け取らないことにした」
「ウ、ウス!?」
「明日、全員に返しに行くつもりだ。…今日の放課後、本命と義理を仕分ける。手伝え」
「ウス…」
「…この量をかよ…」
「…ていうか、これ放課後までどーすんだよ?」
「とりあえず、『近寄るな!』って張り紙でもしておこうか」
「放っといても誰も近寄らないでしょう、こんな山」
「さあ樺地、五時間目が始まるぜ。…昼飯食いそびれちまったから、何なら今からサボって食いに行くか?」
跡部はニヤリと樺地君に笑い掛ける。先程までのシェルフィッシュ跡部はどこへ行ったんだろう。
「……駄目…です」
「っ、そ、そうかよ」
跡部の眉と口端がぴくりと動いたが、もう飛び降りようとすることはなさそうだ。
「じゃあ、次の休み時間だな。10分でさっと済ませるぞ!昼飯抜きは身体に悪いぜ」
「ウス!」
これだけの騒動を起こしておいて、完全に二人の世界だ。
樺地君と跡部は仲睦まじく階段を上って行く。
「私達もそろそろ戻ろう、授業始まっちゃう」
「そうだな…なんかどっと疲れたぜ…」
「…そういえば何か忘れてる気がするんだけど。何だっけ?」
――六時間目の前に何とか自力で這い出してきた眼鏡は、五時間目をサボったことを叱られ、廊下に立たされたそうだ。
あー可哀相にー、と励ましたら泣かれた。めんどくさっ。
バレンタインデーに起こるイベントったー
http://shindanmaker.com/188668
を、たまたま跡部と樺地の名前でやった時
跡部「チョコに埋もれる」
樺地「モテまくる」
という結果が出たので、乗っかってみました。
お陰でネタはわりとスムーズに出たんだけれどなんだこの大遅刻はーー!!たるんどるーーー!!
校舎の構造てきとうでごめんなさい あと百合だめな方ごめんなさいwガチには発展しませんw
2013.2.17