三月十四日、ホワイトデー。
バレンタインにお菓子を配ってくれた女子がお返しを待つ日。
…忍足や宍戸がデジャブだとか呟いてるけど、俺は知らない。
昼休み、ちょっとあったかくなってきた屋上で、でも一応毛布を被ってうとうとしていると、顔の上に影が出来た。寒い。
「ECC、起きて。行くよ」
かー…、あ、この角度ならパンツ見えんじゃねーかな、とちょっと期待して目を開くと忍足が立ってた。鼻の穴がよく見えた。
なんかむかついたから眼鏡を割った。
宍戸におぶってもらって向かった先は、中庭だった。
「また昼休みの跡部達を見に行くんだとよ」
「へー」
「ったく…他にやることねーのかよこいつら」
「でもはお菓子くれるから好きだC」
「おい餌付けされんな!!気をしっかり持てよジロー!」
怒鳴る宍戸の隣で、なんか忍足が遠い目をして「お菓子…か…」とか呟いてたけどよく分かんねー。
丸めてた背中をひょいと伸ばすと、宍戸の肩越しに跡部と樺ちゃんが見えた。
遠くて見えないけど…なんか、いつもより跡部の腕がばたばたしてる気がする。
「…誰も居ませんね、中庭」
「よく気付いたな、日吉。各施設の人の出入りは私が管理している」
「またですか!!」
「日吉、静かにねー」
滝が指差す先では、跡部と樺ちゃんがテーブルにつこうとしていた。
「…アーン?」
「ウス?」
跡部がふと屈み、テーブルの縁を覗き込む。
「気付いたで」
「さすがキングね」
「クイズ!忍足〜、ド「『好きな人にホワイトデーのプレゼントを渡すチャンス☆ドッキドキ☆』って書いてあります」
「クイズ出させてや!!」
「…どうか…しました、か」
「!!!いや、いいいいやなんでもねーぜ!!食おうぜ!!」
急に落ち着きがなくなる跡部…わっかりやすいC。
「…でも跡部、手ぶらだぜ?」
「そうですね、宍戸さん!ところでジロー先輩そろそろ降りたらどうですか」
「いや、よく見てししろ…跡部のポケット」
「ん?……あ、ってお前またすげぇもん持ってんな!」
「双眼鏡か…やるねー」
「この距離からでもくっきり鮮明です」
「ロボットみてー!マジマジカッコE!」
「三脚とかどっから出したんだよ…」
よーく目を凝らして見ると、跡部のブレザーのポケットがちょっと四角く膨らんでいる。
「き、今日の弁当は何だ?アーン?」
「ウス…」
挙動不審な跡部に首を傾げながら、樺ちゃんが弁当箱の蓋を開ける。
「なっ!!」
「「「「!!!」」」」
跡部が声を上げると同時に、忍足と滝ととカントク(43)が息を呑んだ。
でもそれぞれ手元では絵を描いたりポエムを書いたり写真を撮ったり楽譜を書いたりしている。超こえー。
弁当の中には、そぼろ?か何かで文字が書いてあるみたいだ。
「なんだ?何て書いて………」
ぴょんぴょん跳んで覗いていた岳人は、文字が見えた瞬間、絶句した。隣の日吉も遠い目をしている。
あとべさん
いつも
ありがとう
ございます
「チョコ…ありがとう、ございました。美味しかった…です」
「………!」
跡部、目が怖い。
あと、忍足達も怖い。
「…フ……フフフフ、」
ああ…跡部、スイッチ入っちゃったC…
「ファーーーッハッハッハ!!!礼には及ばねえぜ!!」
「ゥ」
「お前のショコラもなかなかの味だったぜ!!ファーーッハッハ!これはその礼だ、受け取れ樺地!!」
シャッターの音と忍足の悲鳴と忍足がぶたれる音がした。
「マジマジ、跡部幸せそうだC…」
「ああ…そうだな」
宍戸の顔は見えないけど、多分すげー生暖かい目をしてる。と思う。
「…ありがとう…ござい、ます」
「ファーーーッハッハッハ!!!」
跡部うるさい。
けど、樺ちゃんがにこにこしてるのは何か癒されるC〜。
って言ったら、日吉が「バケモン笑ってるんですか、あれで」ってぼやいてた。
「ファーーーッハッハッハ!!」
「よし行け跡部!中庭には誰も居ないわよ!」
「やめて!!やめて!!」
「樺地、行ってよし!!」
「やめて!!やめて!!」
「今年も良い曲が書けたな。……ん、『今年も』?」
「…ところで俺に渡すものとか忘れてませんか?宍戸さん!」
「何もねえな。何一つとしてねえな」
「…あ、アメあげるー。チョコもらったから」
「ありがとうECC…………完全に包み紙と一体化してるけど、いつの飴…?」
しあわせなあとべだっていいじゃない(´;ω;`)
2011.3.14