「いやあ、更新なさすぎて忘れられとんのかと思とったわ」
「本当にね」
「? 何の話だ?」
「いや別に」
「うん何も」
「子供にはまだ早いぞ、宍戸。知らなくてよし!」
「は?」


場所は豪邸・跡部邸。
時は10月3日の晩。
やたらキラキラしたやたら広い空間の中には数え切れないほどの紳士と淑女と中学生が混じっている。
でかでかと掲げられたセンスの欠片もない『跡部景吾生誕15周年記念パーティー〜俺様の前夜祭に酔いな〜』のパネルの下には、ふんぞり返った今夜の主役の姿があった。
「さあ飲め!騒げ!庶民共!!今日という日に感謝するんだな!!」

「おーおー…よう自分でああまで言えるなあ」
「本当だぜ」
マイク片手に庶民共を煽る跡部の斜め後ろには、いつものように樺地がぬぼーっと立っている。
はその二人の姿を先程から小一時間ほど撮影し続けている。

「それにしても凄い人数ですね、宍戸さん」
「料理もすごいC!」
「これで参加費タダっておかしいよな。ぜってーメシ目当てでこっそり潜り込んでる奴とか居るだろ」
「食べてよし!!」
「監督が用意したわけじゃないじゃないですか」
「会長に進言かー、やるねー」
「下剋上です」
無理矢理連れて来られた会員数名は、せめて美味い物をたらふく食べて帰ってやろうと心に決めているようだった。

「…そろそろね」
ぐるぐるとアングルを変えて二人を撮影していただったが、壁の時計がカチリと音を立てた瞬間、カメラ(とビデオとその他諸々)を下ろした。

時計の針は22時50分。


予め参加者に配られたパーティーのタイムテーブルには、明らかに不自然な点があった。


19時〜.....立食・跡部景吾トークショー
23時〜....休憩
1時〜.......跡部景吾リサイタル


「もうちょっとこう…なあ、誤魔化そうとか隠そうとか…そういう…」
「ご休憩二時間で足りるのかしら!」
「やめて!やめてー!!」
「うるさい眼鏡」
「きゃーー!!今回は割れるん早い!!」
砕けたレンズを拾い集める忍足をスルーし、はどこかへ電話を掛け始めた。
「誰に掛けてんだ?」
「ここのお手伝いさんだろ…なんか打ち合わせしてたみたいだしよ…」
「ああ…」
「抜け目ないですね…」


がぱたんと携帯を閉じたのと同時に、跡部が休憩を宣言した。
「…さあ!みんな準備はいい?」
「楽しみだねー」
「えー、もっと食べたいC…痛い痛い痛い


広いホール、そして屋敷から出ていった跡部――と樺地――の後ろをこそこそ着いて行く八名の中学生と一人のオッサン。ストーカーは慣れたものだ。
熱狂的な跡部ファンによるストーキングをブロックするのもお手伝いさんの仕事だが、達はすっかり顔パス状態である。


「あ、立ち止まりましたね。ねえ宍戸さん」
「庭もすっげーな、さすが跡部ん家だぜ…クソクソ」

月明かりにぼんやり照らされる二人の姿は、まるで化け物と綺麗な王子、ちょっとした洋画ホラーのワンシーンだ。
「…ハッ!!まさかここで樺地君が野獣に!?」
「いやあああああ!!!」
「違うよ、跡部が「いややー!!いややー!!!」
「煩いぞ、忍足。あまり騒ぐと見つかってしまうだろう」
「あ…はい。…眼鏡も割られんと静かに諭されるとなんやちょっと凹むな…」


跡部が大袈裟に伸びをして、一つ大きな欠伸をした。
「あー眠い」
「ウス…お疲れ様、です」
「お前もな。この数日準備ばっかであんまり寝てねーだろ」
そう言いながら跡部がベンチに腰掛けると、樺地も隣に座った。
「ウ…ス。…でも、みんな、跡部さんのこと…大好きで、楽しみに、してる…から」
「どうだかな、料理目当ても結構居るはずだぜ」


「…あ、自覚あったんですね」
「いや、あれは跡部なりのジョークのつもりかもしれんで」
「さっぱり笑えねー……ってまたすげーもん持ってんな!!」
「だって普通のカメラじゃ綺麗に写らないから」
「こだわるねー」


「三歳から、ずっと…お誕生会、見てます、けど、いつも…みんな、幸せ、そうで…」
「そうか?」
「ウス。俺も…、嬉しい、です。」

ぽつりぽつりと、十年分の思い出が零れて行く。
はそれを撮影しながら片っ端からメモを取り、忍足は血眼になりながら耳を澄まし、滝はポエムを認め、榊は楽譜を取り出した。




「…もうすぐ、4日…」
「そうだな」
腕時計を見て樺地が呟くと、跡部も樺地の腕を覗き込んだ。
「…そういえば、」
「アーン?」
「小さい頃は…あんまり、覚えて、ないけど」
跡部は小さく頷いて、先を促す。
「…今まで、跡部さんの、誕生日…に、なる時…いつも、二人で…居る、ような、気が」

「気のせいやない!!気のせいやないで!!樺ちゃん!!」
「よく気付いた樺地!やるねー!!」
「よし行け!その勢いで!!そのまま行け!!」
「いややー!!いややー!!」


「……もしかして、今日も」


樺地のぼそりとした声は、時計の高い音色に掻き消された。


「…ウス。跡部さん、…お誕生日、おめでとう…ござい、ます」
「…何のウスだよ」
跡部は俯いた顔を上げ、くしゃりと笑って樺地の差し出す箱を受け取った。



「何だろ、あれ」
「けっこんゆびわだC!!」
「無責任な発言はやめとけ、ジロー…」
「だからまだ結婚出来る年齢じゃないしそもそも男同士だと何度言えば」
「粘るねー日吉」
「きっとお花の指輪やね!可愛らしいなあ」
「…ハッ!!まさか中学生には早いあれやそれが!!?」
「いややー!!いややー!!」


跡部は箱の中身をつまみ上げると、月に透かすように覗き込んだ。
「…ネクタイピン?」
「ウス。…跡部さん、大人、だから」


「今からなるのね!ここで!!」
「いややー!!いややー!!」
「侑士うるせえ」
「まさかのがっくんからダメ出し来たで!?」


「まだガキで居るつもりだったんだが…まあ、ありがとな」
「ウス。……大人、になっても、誕生日…お祝い、させて…ください」
「……」
「……」
「……」
「…駄目…です、か?」
「い゛、いや、い゛いぜ!!望むところだぜ!!」


「あっ」
「出たわね、キングの奥義『イケメン台無し』!!!」
「不名誉な奥義ですね…」
「鼻血のせいで本当ただのホラーみてーになってんな」



――しかし、1時からの跡部(15)は一転、輝く笑顔を惜しみ無く振り撒くカリスマそのものだった。
ちなみに、リサイタル一曲目は勿論、

「行くぜてめーらぁ!!記念すべき一曲目は…『KA・BA・JI』だ!!」





「あーなんかドッと疲れた…」
「跡部は一日二時間くらいでいいよな。半日ずっと見てると頭痛くなってくるぜ」
「そう考えると、バケモンは凄いですね」
「宍戸さんは何日見てても飽きませんよ!!ねえ宍戸さん!!」
「それを俺に聞くのはおかしいだろ」
「でもご飯おいしかったC」
「まーな。立ち食いパーティーのために行ってるようなもんだからな」
「宍戸、それは…りっ…………いや、何でもない」
「?」

















だからこれは3日にアップすべきものではないのか。というかそもそも4日に間に合ってないとかもう本当死のうか…

2010.10.5