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三月十四日、ホワイトデー。
バレンタインに頑張ったかわええ女の子(一部例外で男子)がドキドキしてお礼を待つ日。
…俺は山のようにもらったからお返し大変なんやけどな~。
「そういや侑士、なんか貰ったチョコ食って暫らく悶え苦しんでたよな」
「俺、忍足がソフト部の女子に豪速でチョコぶつけられてるの見たCー」
「それで眼鏡のレンズ割れて、代わりにぴったりサイズのチョコはめられてたな。激笑えたぜ」
…うん、でもな、あんだけ当日一緒に居った●●さんはチョコ一個もくれへんかったんや。俺は友達でもなければ義理も無いってわけやな!地味に凹むわ。
…ちゅーか、あのポマードのオッサンに負けたっていうんが一番傷ついたわぁ…。
……まあまあ、それはええねん。
気になるんはあいつ、跡部や。
俺と●●さんが神経すり減らして頑張った手作りチョコ。
次の日も樺地がお礼言うてたんは見たけど 物でのお返しはまだしとらんみたいやから、きっと今日渡すつもりなんやろ。
「クッキーに千円。忍足は?」
「え、賭けるん!?っていうかいつから居ったん●●さん」
「でも樺地くん器用だし、もっと凝ったの持ってくるかな…」
無視かい、とツッコむのももう面倒になってきた。
「既製品はないだろうなあ…持って来ないってのは論外で」
「ソウヤネ」
「あ、噂をすれば何とやら」
ちょっ、そこは なんでカタコトやねーん!とかってツッコむとこ…いや、もう、ええけどな。
「跡部やん」
「今日は樺地くんと一緒に登校じゃないのね」
現在地校門前、珍しく跡部は一人で歩いてきた。
振り返り。
立ち止まり。
踵を鳴らし。
また振り返り。
「うわ…めっちゃ気にしとる」
「そんな気になるならなんで一人で…」
そう呟く俺達には気付かず、跡部は舌打ちすると眉間に皺を寄せたまま木にもたれ掛かった。
「待つつもり?」
「みたいやな…、どないしたんやろ。もう本人に訊いてみよか」
「まあ散々手伝ったんだし、これくらいね」
そう言うと俺達は植木の陰からガサァッと立ち上がり(偶々傍を歩いとった奴らがめっちゃ驚いて二、三歩退いたけど気にせん)、跡部のもとへ向かう。
「おはようさん」
「おはよう跡部」
「…ああ…お前らか」
うわっ、テンション低ッ…!声も低ッ!
「あ、あげてこうよあげてこうよテンションあげてこうよ!」
「そうやで!!」
いつもの高笑いはどこへやら、跡部の顔は沈んだまま。
「あ、の、どうしたの?今日は樺地く
●●さんがそこまで言ったところで、跡部はわっと両手で顔を覆った。
「あああごめん泣かないで!泣くなホクロ!!」
「そうや、仮にもキングやろホクロ!!」
前髪を掴んだまま震える跡部の目の下には、うっすら隈が浮かんどる。
寝られんかったんやろな…
「大丈夫?何があったか話せる?…っていうか直ちに話せホクロ」
●●さんが
脅し
語り掛けると、跡部は俯いたまま、ぽつりぽつりと声を漏らし始めた。
「…いつも、」
「うん」
「俺の家まで迎えに来るんだ。毎朝、毎朝」
「ロマンスゲッ「うるさい眼鏡」
「なのに、」
そこまで言うと、跡部はぎゅっと口を閉ざし足元の石を蹴った。
「…今朝は、来なかったの?」
俯く顔を覗き込んでガン見する●●さんに、跡部は小さく頷く。
「電話が掛かってきてな…。今日は先に行ってくださいっつって、何でだって訊いても答えねえから」
「樺ちゃんの家行かんかったん?」
「行こうとしたんだが………何故か急に知らねえ道に出ててな。そのまま適当に歩いてたら学園に着いたからここで待つことにした」
…………。
「うわあ…よう無事やったな…」
「あほべ…」
今度またそんなことがあったら、絶対にその場から動かず家の人に電話を掛けなさいと指導する●●さん。母親みたいや。
「樺地くんから電話が掛かってきたのは何時頃?」
「そうだな…確か、七時半を過ぎたあたりだったか」
「そっか…その前からずっとここに居たけど、樺地くんはまだ来てないよ」
え、その前から?早過ぎん?という疑問は飲み込む。
俺より先に来とったんか、●●さん…
「しっかし、何やろうなあ…もう予鈴鳴ってまうで」
「いつもは結構早いのに、今日に限って遅刻ぎりぎりなんてね…」
ぎりぎりっちゅーか、このままやったら遅刻してまうんやないかな。
いや、それか、もう今日はこのまま来うへん、とか……
そこまで考えたところで予鈴が鳴り、まばらになってきた生徒達は慌てて走り出す。
「…跡部、とりあえず教室行こうや。一応生徒会長なんやし、遅刻するわけにいかんやろ?」
「そうだね…何があったか分からないけど、また後で訊けばいいよ」
「…ああ…そうだな」
そうだなと言いつつ、その眉は歪められたまま。
待つのは諦めたのか、跡部の足が一歩動く。
「……樺地…」
「ウス」
あーれーーーーー!!?
跡部の小さな呟きに、背後から思わぬ返事が返ってきた。
「か、樺地!お前いつの間に、」
「あれ、おはよう樺地くん」
「ウス」
樺地はいつものように頭を下げて挨拶する。
少し息があがっとるみたいや。
「走って来たん?」
「ウス。……あの、皆さん、早くしないと、遅刻…」
「あっせやった!」
「おい樺地!てめぇ、親切面しやがって…!誰のせいでこうなったと思ってやがる!!」
「ウ……?」
ちょっと泣きそうな顔で食って掛かる跡部と、何のことか分かってないんか軽く首を傾げる樺地。
とことん噛み合わん二人やなあ…。
「跡部、樺地くんのこと待ってたんだよ」
「!!?てめっ、●●!!」
途端、顔を真っ赤にした跡部は●●さんの首を掴んでぎゅうぎゅう締めあげた。
跡部…あとで三途の川ダイビングする羽目になっても知らんで…
「そう…だったん、ですか…すみま、せん」
申し訳なさそうに眉を下げる樺地に、●●さんの首から手を離した跡部がきつい視線を投げた。
●●さんはさりげなく跡部の足をぐりぐり踏ん付けとる。
「ったく…一体何して
「こら、お前達!早く入りなさい!」
跡部のぼやきは、突然校舎内から響いた先生の声によって断ち切られた。
「もう本鈴が鳴……あ、榊先生…………
ヒィッ!!ごめんなさい!!!
」
…そしてその注意は、先生の背後に現われた監督の囁きによって断ち切られた。
「気にするなお前たち、続けてよし!」
監督はビシィッと例のポーズをとると、コートを翻し颯爽と校舎の奥へ去って行く。
何を耳打ちしたんか知らんけど……オッサン、校内ではコート脱ぎや。
と、そこで再びチャイムが鳴った。
「ぎゃー本鈴ー!!」
「…クソ、樺地!今日はもう教室まで来なくていい、話はまた昼に聞く!」
「ウ…ウス」
俺ら四人は慌ててばたばたと校舎に入り、途中で樺地と別れて各々の教室へ滑り込んだのだった。
──昼休み。
急いで跡部のクラスに向かったんやけど、目的の人物はそこにはすでに居らんかった。
クラスの奴らの証言によると、跡部はチャイムとともに弁当を引っ掴み、風のように走って行ったらしい。
その速度は宍戸はおろかスカッドサーブをも超える勢いやったという。
「あ、眼鏡!跡部は?」
「もう中庭行ったみたいやで。急がんと」
駆け寄ってきた●●さんに返事をし、二人で中庭へと急いだ。
…眼鏡呼ばわりやけどな、うん、もうええわ。
「樺地くんはまだみたいだね」
「そやな……にしても、跡部落ち着き無さすぎやろ」
きょろきょろしたりうろうろしたり、威厳も余裕も見当たらんわ。
待ちかねた跡部がとうとう弁当を掴んで立ち上がったその時、ようやく樺地が現われた。
「ったく!何してたんだ!遅ぇぞ!!」
「ウ…ウス、すみま、せん」
早々に怒鳴り散らす跡部の目は、めちゃめちゃ鋭い。ナイフ並みやな。
樺地は気圧されたように小さく謝る。
「…で?朝はどうしたんだ、お前」
樺地が椅子に腰掛けると、跡部はテーブルに肘をつき口を開いた。
「ウス…お菓子を、作っていました」
「………菓子?」
「ウス。バレンタインの、お礼に」
それを聞いた跡部はぽかんと口を開け、次第に目元が緩んでいった。
「…俺にか?」
「ウス。…他には、貰って、ないので」
すでに目元だるだるの跡部だが、更に口元まで緩み始めてくる。
「クッキー取り消し、ケーキに千円」
「まだ賭ける気かい!…ほな俺、マシュマロに五百円」
「手作りマシュマロ?」
「どうやって作るんかも分からんけど、樺ちゃんなら出来ると思う」
「根拠なき自信ね…。でもなんか分かる気がするわ」
「何だ、作り置き出来ないような物か?」
「いえ…クッキー、です…」
そこまで言うと樺地は顔を背け口ごもった。
「?」
跡部は軽く首を傾げ、視線で先を促す。目元はどるどるや。
「…あ、の……朝、早起きして…焼こうと思って、準備してたんです、けど」
口元ゆるゆるの跡部が小さく頷く。
と、樺地は僅かに頬を染め、目線を逸らしたまま小声で続けた。
「………緊張して…、眠れなくて…少し、寝坊、しました」
「…………………」
ドッシャーーーン!!!
数秒遅れで跡部の顔はぶおわっと音を立てて真っ赤になり、そのまま後ろへ引っ繰り返った。
「あぁ…!ロマンスゲットぉ…!!」
「ちっ、クッキー取り消しするんじゃなかったわ…!」
そんなことをぼやきながらも、●●さんは 倒れた跡部とそれを支え起こす樺地の姿を撮りまくっている。
…その携帯、どっかに落としたら身の破滅やで…。
「なん、何だそ、れ」
「…チョコレートを頂いたぶんだけじゃ、なくて、
…いつも感謝しているぶん、を、…頑張って作らないと、って、思ったら、なんだか」
そう告げながら、樺地の顔もみるみる真っ赤になっていく。
茹で蛸二丁あがりー!!!
「バレンタインに、何か…とか、思ったんです、けど、迷惑かなって思って…
跡部さんがくれるなんて、思ってなかったので、すごく、嬉しかった…です」
「……か…ば……、
!!!
」
「ウス!?」
「うわ」
「あーあー…!」
樺地からのロマンス満載な台詞に、跡部の顔は真っ赤を通り越し あの、キングともあろう御方が、
──鼻から一筋、鮮血を流した。
「所謂鼻血やね!!」
「わざわざ言わなくても分かるわよ眼鏡」
「すんません」
「あと、べさん」
「っ……」
跡部は樺地の差し出したティッシュを受け取り、鼻を拭いながら 何か言おうと口を開き、また閉じ…を数度繰り返していた。
「激ダサやな…」
「…まあ、昇天してしまわなくて良かったわ」
情けない姿を見せてしまって気まずいのと 先程の台詞に照れているのとで、跡部はちょっとおもろい顔になっとる。
「大丈夫、ですか?」
「…ああ…」
「自分が鼻血出させたくせに、ああも普通に訊ねるなんて…只者じゃないわね」
「…ちゅーか、分かってないんやろな、自分のせいやって」
「…で、今持ってんのか?クッキー」
「いえ…お家に着いたら、その時、と思って」
「…跡部の荷物増やしたらあかんとか思っとんのかな」
「樺地くんらしいね」
「そうか。じゃあ帰り、家……寄っていけ。一緒に食おうぜ」
そこまで言うのにまた体温が上がったのか、跡部は慌てて鼻にティッシュを宛てがう。
「ウス!」
嬉しそう(あんまり分からんのやけど)に頷いた樺地を見て、跡部はよろよろと立ち上がり椅子に座った。
「よく誘った、跡部!上出来だね」
「まあ…湯で蛸二匹やし、家行っても進展は無さそうやけどな」
そんな和やかな昼休みを見届け、チャイムと共に教室へ戻……ろうとしたら、廊下の前方からあのオッサンが歩いてきた。
「ああ、●●。先日の礼をしようと思っていたところだ。放課後職員室に来なさい」
「放課後はKBAT観察があるので無理です」
「…そうか、ならば仕方ないな。いつなら空いている」
「なんで時間空けないといけないのよ…さっさと礼だけよこしたらいいだろオッサン」
「何か言ったか」
「いいえ何も!」
「……まあいい、また今度にしよう。ところで今日は私の誕生日なんだが」
「へーそうなんですか。…それで?」
「…いや、それだけだが…」
「そうですか。じゃあ授業始まるのでこれで」
そう
吐き捨てる
言うと、●●さんはぺこりと頭を下げて教室へと入って行った。
…きっついな●●さん……。
オッサン金持ちやし、お返しも高いんやろなぁ。
それ目当てで渡したんかな、●●さんは。
俺、貰わんで正解やった…。
…って、オッサンなんやめっちゃこっち見よる!!!
「…というわけだ、忍足。今日は私の誕生日なのだよ」
「ああぁ、はい、はい!おめでとうございます!!いつもご指導ありがとうございます!!」
「それを物に表したりはしないのか、忍足」
「え、えー…!いや、あの、俺今月すでにピンチで、あんまりええもん買えんのですわ!!すんません!!」
「別に良い物でなくていい、中学生なのだからそれは仕方がないことだ」
「え、あー、ちょ、誰か!誰か助けてー!!!」
目元だるだる→目元どるどる→口元ゆるゆる→赤面→鼻血→???→昇天
???には一体何が入るのか。私も知らない。(投げっぱなし)
タロちゃんは別にたかっているわけではなく、生徒に愛されているということを実感自慢したいようです。
2007.3.14