あーあかん。
ToKabaat2制作頑張り過ぎてしもた。
こんな時間かいなと四時半の時計を確認してベッドに入った。

…そして今。
七時半。
玄関のチャイムが鳴った。
せやけどおかんもおとんも起きる気配があらへん。
……俺?いやー、あれやん僕まだ三時間しか寝とらんのですわー帰ってくれまへんかー誰か知らんけど休みの日の七時半て早いんとちゃうかなーしかも丁度眠りが浅くなる時間に来んといてくれんかなー
…よし。居留守や。俺は悪ない、来る奴が悪いねん。おかんもおとんも起きんのが悪いねん。
俺は居らん俺は居らん俺は居らん。
……………。
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

誰やねん!!!
根負けした、と言うかけたたましいチャイムの音で寝られそうもないと判断した俺は渋々玄関へ向かう。
その間も止まる事無く鳴り響くチャイム。
「はいはいはい、どちらさん…」
ガチャリとドアを開ければ、尚もチャイムを押し続けようと手を掲げたままで
さんが立っとった。

「早く出なさいよね眼鏡」
「…いや、俺今眼鏡掛けてないけど……ちゅーか、家教えたことあったっけ…?」
「会長に聞いたの」
…個人情報洩らすなやオッサン…
俺が溜め息をつくと同時に、さんはドアを押し俺の腕をくぐって家の中へと侵入を始めた。
「え、何?上がるん!?」
「とりあえずお茶出してよ」
「何その傍若無人!!」


「はいどーぞ…」
「どうも」
ペットボトルの麦茶をコップに注ぎ、玄関に腰掛けるさんに差し出した。
「…で?何か用なん?」
麦茶のCMばりにええ飲みっぷりを披露するさんに訊ねる。
「うん。樺地君と跡部が八時からおデートらしいです」
「え!ほんまに!?……て、そないな情報どこから…」
「とあるメイドさんから。菓子折りとか使って」
…さすがやな…
…もう恐さより尊敬とか感心になってきたわ。

「樺地君が跡部の家に迎えに行って出掛けるらしいわ。もう時間ないし、とっとと着替えて来て」
「お茶出せ言うたんさんやん!!ちゅーか、メールくれたら準備しとったのに」
「だって会長は連絡取ったら今ドイツに居るとか言うし、
ししろにはメール拒否されてたから直接家に行ってみたんだけど 親戚のサッカーの試合見に行くとかで昨日から出掛けてるらしいし。
ししろの家からならメールで説明するより来た方が早いじゃない」
「え?俺そこまで仕方なしに誘われたん?」
「いいから早く着替えなさいよ、眼鏡のない眼鏡なんて湯豆腐の豆腐抜きじゃない」
あ…俺、湯なん?今の俺、湯なん?



「あーとーべしーい、あーさがきた、かーばーじの、あーさーだー」
「何その文脈のない歌」
「ノリよ」
「ノリか」
わけの分からん歌を歌うさんと並んで跡部の家に向かう。
…楽しみなんやけど、あの豪邸の傍でコソコソするんはいつかお縄沙汰になりそうでちょっぴり恐いねん。
暫らく歩いて行くと、周りから頭が飛び出たでかい建物が見えて来た。
広い広い庭の向こう、遠い玄関が見えるよう、豪邸の真っ正面から双眼鏡を構える。
道路を挟んだ向かいから、豪奢な門を見つめる怪しい人影二つ。
…うん、見つかったらお縄やな。御用やな。

「あ、湯!樺地君来たわよ!」
「お!ほんまや……ってあれ?湯?俺今眼鏡掛けとるよ?
樺地は誰かさんと違ってチャイムを丁寧に一回だけ押して、気を付けの姿勢で待っとる。
まずインターホンに執事さんが出るんかなぁと思ったら、すぐにどたばたと音を立て(音から推測するに、慌てすぎて恐らく一回転んだ)跡部が飛び出…しては来んかった。
「…平静装ってゆっくり出てきよったな」
「ここから見ても分かるくらい息切れてるのにね」

「お、おぅ、お、遅かった、じゃ、ねーか」
「ウス…すみま、せん」

「息切れ切れじゃない」
「遅いて、時間丁度やんか。樺ちゃんもわざわざ謝ったらんでええのに…」
「クールな顔で息荒いのって怖いわね…」

「じゃ、行くぞ、樺地」
「ウス」
跡部は荷物を樺地に渡すと、いつものように二歩先を颯爽と歩き出した。

「…で、どこ行くんやろ?」
「予想だけど、この間アクセサリー買った時の約束じゃないかしら」
「ん?あ、今度服買いに行こういうやつか」
「そうそう。で、お店が開くまでまだ時間があるから、多分この辺りのお店じゃなくて少し遠出するんだと思うの」
「お…おお…」
何なんやろう、この推理力…宍戸が見たら「もっと違うもんに使えよ」って言うやろなぁ…


土曜っちゅーてもこの時間、まだ人は少ない。見つからんように物陰を伝ってこそこそついて行く。
着いた先はさんの読み通り、駅やった。
けど、切符買うたら改札やなくてコンビニに入って行った。まだ時間あるんやろか…
俺らも切符買うて(二人の行き先は2.0の視力でチェック済みやで!)コンビニに入る。
「何か立ち読みしてる…スポーツ誌ね」
「樺ちゃんも同じの読みたそうやな」
「あ」
同じ雑誌は棚に無かったんか、二人は寄り添って一つの雑誌を覗き始めた。
そして俺の隣のさんは無言で猛烈な勢いでシャッターを切り始めた。怖い。

暫らく後、二人は雑誌を元の棚に戻して飲み物やお菓子を選びだした。店内狭いからこっそりついて行くんも大変やな。
「あ、俺朝食べてないんやった…何か買おかな」
「今レジに行ったら見つかるから、買うなら二人がここ出た後ね」
「そうやなぁ」
「もしくは私が家から持って来た菓子パンを五倍の値段で買い取るか」
「暴利!!」
五倍て高すぎやろ…っちゅーことで、俺は二人が出た後で買い物をした。
その間、さんはホームに向かう二人を追い掛けて先に行ってしまった。俺置いて行った。冷たい。
急いでホームに向かうと、二人はベンチに座っとった。人が少なくて見つかりやすいからか、さんは自販機の陰に隠れとる。
そこへ上り列車がやって来て、二人はそれに乗り込んだ。

「困ったわね」
「んー、人少ないなあ」
二人が乗り込んだ車両はがらがらで、見つかることを恐れた俺らは一先ず後方のデッキに乗った。
「こんなことなら盗聴器でも仕入れとくんだったわ…」
「…そろそろ捕まるで自分」
時折カーブで開きそうになる車両間ドアの窓から二人の様子を窺う。
「空いとるのにわざわざあんなひっついて…」
「そうね。もっとひっつけばいいのに」
「うん、俺、一っ言も言うてないけどな。俺はあの何とも言えん距離こそ宝やと思うけどな」
隣の人はシャッターを切りながら、唇読めないかしら…とかぶつぶつ言うとる。怖い。

時間が経ち、一つ、また一つと駅に停まるうち、乗客は少しずつ数が増えてきた。
「あいつらやっぱり目立つなぁ」
「うん。乗る人乗る人、あの二人の方ちらちら見てるわね」
そして、ちらちら見る乗客にガンを飛ばすは跡部景吾。お前…親子連れびびって隣の車両逃げてしもうたやないか。
「ふむ…、『樺地を見つめて脳内であれこれしていいのは俺様だけ「うああああああ!!!!」
「うるさい湯眼鏡」
ほんまにこの子は!!朝っぱらから俺の畑荒らしよって!!…って、湯眼鏡?
「あ、次で降りるみたいよ」
まだ電車は走っているにも関わらず、二人はドアの前へ移動する。
─と、その瞬間車体が大きく揺れ、

……俺は転んで見えへんかったけど、上手く手摺りに掴まったさんが鬼のようにシャッター切っとったから、
多分跡部がふらついて樺地に支えられるとかいうドキドキ☆ハプニングがあったんやと思う。
その後覗いたら跡部が顔真っ赤にしとったしな。周りの人らガン見やったしな。


降り立った先は若者の街、というにはちょっとずれた場所やった。
「跡部やったらブランド街かなー思たんやけどな」
「樺地君に合わせたのかもね」
ホームの人込みの中で見失わんように、背の高い金茶髪と黒髪を追う。
暫らく追い掛け、何とか会話が聞こえる位置まで近寄ることができた。
「樺地」
「ウス」
返事をすると、樺地はさっきのコンビニの袋からペットボトルを出し、キャップを外して跡部に渡した。
凄いなあ、名前呼んだだけやのに…。
受け取った跡部は満足気に二口ほど飲むと、またペットボトルを樺地に返す。
「お、お前も喉渇いてたら、のの飲んでいいん、だぜ?」

「出た!ベッタベタ間接ちゅー作戦や!」
「間接なんてまどろっこしいことしなくていいのに…」
「何を言うとんねん、このもどかしさこそ甘酸っぱい恋の表れやんか!!」
「うざっ」
「ひどっ」

「ウス…今は、大丈夫、です」
「そ、そうか。……」
悪気など微塵も感じさせない微笑みで、樺地はキャップを締めた。
微笑みで返した跡部はその一秒後、これでもかというほどの負のオーラを発した。…純粋って、罪やな。

「樺地、まだ時間がある。そこの公園で菓子でも摘もうぜ」
「ウス」
二人は公園のベンチに腰掛けると、再びコンビニの袋を開いた。
「これにするか」
「ウス」
取り出したのは食べやすそうなスティック状のスナック菓子。

「ポッキーゲームとかすればいいのに」
「あー、ええなあ。可愛らし」
「そこから何か色々と発展してしまえばい「うわああああああん!!!」
「朝も早い公園で「うわああああああん!!!」
「うるさい湯眼鏡」
もう嫌や!!最近わざわざ花植えてから刈っていきよるでこの人!!!

「ちょっと味が薄いな…」
「ウス」
「で、油っこい」
「ウス。…失礼、します」
そう言うと、樺地は鞄からハンカチを出してそれで跡部の口元を拭った。
「な、ななななんだ?」
「ウス…お菓子の…油、が」
「そ、そうか」
跡部は真っ赤になり、慌ててまたお菓子を口に運ぶ。

…が、
「また食べるんなら、結局また油つくわよね」
「やんな。まめに拭いといた方が肌にええんやろか…」
「ハッ!!まさか樺地君、油で色っぽく艶めく跡部の唇に惑わされまいと…!とっとと惑わされてしまうがいいわ!!解き放て獣の心!!「あああああもう嫌やああああ」
さんの言葉は必死で頭から払い除け、俺もさっき買ったおにぎりを齧る。高菜うまい。


「樺地」
「ウス」
再びのペットボトル!!
跡部が一口飲んで、樺地に返す。
「………」
そのペットボトルをじっと見る樺地。

「樺地君が油で色っぽく艶めく跡部の唇に触れたペットボトルを見つめている…!とっとと惑わされてしまうがいいわ!!解き放て獣の「もうええ!!」

「…飲んで…いい、ですか」
「!!!お、おおおおおおうおう、飲んでいいっつってんだろーが!!!」
「ウス。失礼、します」
急に振り向かれて驚きじたばたする跡部の返事を聞き、樺地は頷いた。
そして、ごくりと一口。

「ロマンスやー…!!」
「よーし!そのまま勢いで「やめて!!やめてー!!」

跡部も樺地を見ながら、喜びやら恥ずかしさやらでごっつ変な顔になっとる。この顔だけ見たらもう誰か分からへん。
「…?跡部、さん?」
「っ!!?あ、あああおう、そ、そろそろ行くか!!!」
「?ウス」
二人は食べかけのお菓子をまた袋に入れて公園を出た。
煉瓦調の遊歩道に二人の足音が鳴る。

「どんなお店行くんだろ…はっ!まさか本来私達はは立ち入れないような「うん、それ前やったな」
「うるさいこの湯冷まし」
「湯冷まし!?」

向かった先は商店街やった。ちょこちょこ食べ物屋やゲームセンターが挟まっとるけど、大体が服屋らしい。
決まった店で選ぶんやなくて、あちこち見ながら気に入るもんを探すんかな。

「あの店にするか」
「ウス」
一言で言うならカジュアルファッション、やろうか。奇抜さのない、樺地が好んで着そうな服が並ぶ店へと二人は入って行った。
「お前、持ってる服地味なのばっかりだろ。たまにはちょっと派手なの着てみろよ」
…うん、跡部からしたらこの世の全ては地味やろうな。
跡部のセンスに任せて大丈夫なんやろうか…

「これなんかどうだ?」
「ウ…ウス」
「試着だ、行け樺地!」
パチーンと指を鳴らす跡部に店員の目は釘付け。いい迷惑やな。

「服って、似合いそうにないと思っても実際着てみたら意外といけたりするわよね」
「確かにな……あ、そういやさんの私服て今日初めてやな」
「あんたもね。…モサさ三割増しでいいと思うわよ」
「ははは、そない褒め………褒めてないよなそれ」


試着室に送り込まれた樺地は、数分後おずおずとカーテンをめくった。
店内の服を見るふりをして、こっそりカーテンの向こうをインサイトしていた跡部は「どうだ?」と訊ねる。
「少し…小さい、です」
「ああ、まあお前でけーからな。仕方ねえな…見せてみろよ」
そう言ってカーテンを開けると、そこには随分男らしい樺地が居った。
服が小さいから筋肉ついとるのがよく分かって、シンプルなデザインがそれを強調する。
そして胸元には例の指輪。
「な……なかなか、いいんじゃねーの…?」

「ああ!跡部が獣と乙女の中間の危ない顔に!!」
「目逸らしながらガン見しよる…!何やろあの技術!」

「…自分、では…よく…分からない、です」
「大丈夫だ、似合ってるぜ」
「ウ、ウス!よかった、です」
「これなんかもいいんじゃねーか?着てみろ」
「ウス」
新たな服を手に、カーテンが再び閉まる。跡部の手は再び眉間に当てられる。
樺地ファッションショーはまだ始まったばかりやで…



さっきの店は保留にしたんか、場所を移動し今度はちょっとロック調なお店。
樺地、ええ身体やから何でも似合うとは思うんやけど。
「よし、思い切ってこれだ!」
「ウ…ウス」
跡部が手渡したのは、格好ええけどちょっと毒の効いたデザインの服。天使にあえて悪魔な服を着せてみる作戦やな!
樺地はまた試着室へ引っ込む。

「ああ、何かもうインサイトやめて直に覗こうとしてるわ跡部」
「やめてー!樺ちゃんの心に傷を刻まんといてー!!」
「店員さんも困ってるわね…」

暫らく後、カーテンが開く。
そこに立つ樺地を見て、店員も俺らと同じことを思っただろう。
「「恐ッ」」
「似合っとる…似合っとるんやけど…!!」
「ゲーセンで見掛けたら絶対話し掛けちゃいけないタイプの人だわ…!」
「体付きの良さが裏目に出たな…恐い恐い」

しかし、一方の跡部は盲目。
「か…格好いいじゃねえの…!ワイルドだぜ」
「…ウ…ウス…?恐く、ない、ですか?」
樺地自覚しとる!!
自分にも樺地にも盲目な跡部とは大違いやな。
「フッ…俺様は、お前になら何されたって、こ…怖くなんかねーんだぜ?だ、だから、遠慮すんなよ」
「……ウ?ス」

「話随分飛躍したーーー!!!」
「よし樺地君、お言葉に甘えてしまえ!解き放て「もうええって!!」

「…跡部さんは、服…見ないん、ですか?」
「アーン?俺様はいいんだよ、お前の服を見に来たんだろうが」
「ウス…わざわざ、すみま、せん」
人目も憚らず堂々と淡い桃色オーラを振りまく二人。…やけどやっぱり、樺地、めっちゃ恐い。
「ほら、次はこれだぜ!」
「ウ、ウス!」
跡部は目を輝かせ、取っ替え引っ替え樺地を着替えさせた。



…そして、更に次の店を探し移動している時。
跡部の目がある物に留まった。
「…あら…?…跡部…」
「…スカートよね、あれ。どう見ても」

そう、それはひらひらふりふりのピンクの、スカート。

「可愛いけど、サイズ的に入らないよねー、樺地君じゃ」
「いや、もっとツッコむべき根本的なことがあるやん!!」
跡部…頼む、樺地の妹さん宛てやろ?やんな?それ…!

「?跡部、さん?」
「!!!い、いいいいや何でもないぜ!?趣向を変えてこんなのもどうかなんて全然思ってないぜ!!?」
ああ…!そこはさらりと『お前の妹に似合いそうだと思ってな』とか言うてほしかった…!!
「…ウス。跡部さん、なら…何でも、似合い、ます」
「な!!」

樺地分かってない!!噛み合うてない!!跡部も何ちょっと照れとんねん!!
そんでなんぼ跡部が樺ちゃんより華奢や言うてもそれははけん!ちゅーかはいたらあかん!!
「互いに女装を求める二人…なかなか相性よさそうじゃない」
「嫌やー!!可愛いんはええけどそんなマニアックさはいらんー!!」

「あ、当たり前じゃねーの!!メイド服だろうがナース服だろうが着こなしてやるぜ!ファーッハッハッハッハ!!」
「ウス」
道路の真ん中でそんなん大声で言わんといてーー!!!樺地もウスて言わんといてーー!!!
「よし」
「よして!よして何なんさん!?」
「新刊の内容が決まったわ」
「あああ…!!やめて…!!」
さんは爽やかな笑顔で親指を立てて、俺の花畑に放火して行く…。そこに油を撒くんが跡部なら、樺地は扇いで酸素を送る係や…



花畑がすっかり焼け野原に変わった頃。
二人は次に入った店が気に入ったらしく、樺地はそこで二着購入した。
ついに試着室のカーテンに顔を突っ込んだ跡部は「俺様が買ってやるぜ?」と言っていたが、樺地は「この指輪、も…買って、もらったので」と丁寧に断っていた。
そして、「その、お礼に……。今日、服も…選んでもらった、から、何か…プレゼント、させて…下さい」と。
頬を染める二人に、「はっ!プレゼントは樺地君ね…!!」と隣の人は叫んどったけど、二人は目についたファーストフード店に入って行った。とりあえずお昼を食べるらしい。
お昼時をちょっと過ぎたからか、客は居るんは居るがそんなに混んどるという感じではない。

「何に…します、か」
「何でもいいぜ。お前に任せる」
「ウス…」
樺地は唸りながら、頭上のメニューと睨めっこする。

「何でもいい、って一番困るわよね」
「せやな。けどほんまに何でもええ時ってあるよな」
「あるよね」
そう呟きながら、さんは(五倍の値段で売り付けられそうになった)菓子パンを齧っとる。わざわざここで食べんでもええのに…

暫らくして、注文が決まったのか樺地はレジの人に声を掛けた。
跡部がカードを出そうとするが、樺地はゆっくり大きく首を振ってそれを断った。
二人が席についたのを確認して、俺もレジに向かう。…腹減ったんやもん。それに、何も食べずに居座るんはさすがにな。
さんは菓子パンを齧りながら、バレずに二人をチェック出来るいい席を探して店内をうろつく。

そして俺が、席についた時。
「…なあ樺地」
「ウス」
「今日、ずっと思ってたんだが…何か、視線感じねえか?」

「ギクッ」
「効果音を口で言うな湯眼鏡」

「ウー…ウス。…多分、跡部さん、格好いい…から」
「な!!ななな何言ってやがる!!バカ!バカバーカ!!てめぇだって、か、かかかっこいいぜ!!」
そう叫びながら真っ赤になってじったんばったん暴れる。お客店員の視線釘づけやで。さすが跡部。
「そ…そんな、こと…自分は、身長が…大きいだけ、です」
「アーン!?俺様の言うことが信じられねーってのか!?樺地の分際で!!」

「言うこと食い違っとる!!」
「まあ、跡部ツンデレだから」
「え、これツンデレとかそういう問題なん?」

「ウ…ウ、」
樺地が困っとると、丁度ええタイミングで店員さんが番号を呼んだ。
「あ、と、取って、来ます」
顔を真っ赤にした樺地は慌てて椅子から立ち上がり、逃げるように渡し口へと向かって行った。
戻って来る頃には、視線の話題はどっかへ消えてしもとった。よかった。



食事を終えた二人は、向かいにある雑貨屋へ入って行った。
雑貨と言うより、大半がおもちゃやろうか。ここでプレゼントを決めるのか、二人はごちゃごちゃした売場をずんずん進んで行く。 
「…何か、欲しい物、あったら」
「そうだな…あんまり俺様の好みの物はねぇが、くだらねーおもちゃもこれはこれで面白そうだな」
おもちゃの蛙を摘み上げながら、跡部は再び口を開く。
「何か面白い物ねーのか?今度はお前が教えろよ」
「…ウス!」

「嬉しそうやな、樺ちゃん」
「蛙を持って微笑む二人…!よし、監督にはこれを送ろう」
「あ、後で俺にも!」
「いいけど…たまにはあんたも自分で撮りなさいよ」
「せやかて、俺の携帯改造してへんから撮ったらバレるやん」
「ああ…そっか」

跡部と樺地は童心にかえって(今も子供やんとか言うたらいかん)おもちゃを漁っとる。
……幼児向け玩具に夢中な金茶髪と大男、かなり変な光景や。
たまに通るお客や店員さんもじろじろ見よる。
…その後、みんな必ずこっちを見てくるんは何でかな。こそこそ隠れとる姿が怪しいんかな?
と、ふと振り向いたらさんが髭眼鏡掛けとった。このせいやな。

「…これ、とか…どうですか?」
「??何だそれ。…ガム?」

「出た!お約束!!結構勘違いしとる人居るけど、パッチンガ「ムじゃなくてパンチガムなのよね」
「取らんといてー!解説させてー!!」
俺の必死の願いをさらりとシカトするさんフィーチャリング髭眼鏡。さすがやな…

シカトしつつさんが見つめる先では、樺地が恐る恐る跡部にガムを勧める。
「…?何だ?」
「ウ、ス。…どうぞ」
首を傾げながら、跡部がガムに手を延ばす。

ぱちんっ

「い…って!」
「大丈夫…です、か?」
樺地が見事に罠に引っ掛かった跡部の手を取る。さんはその光景を必死に携帯で撮る。
「っ…、な、何すんだよ!!」
おもちゃにまんまと引っ掛かった恥ずかしさと手を取られた照れ臭さからか、跡部はピコハンでべっしべっしピッコピッコと樺地の肩を叩く。
「…こういう、おもちゃ…です、から」
「フ、フン…まあ、悪かねぇな。宍戸あたりに使ってみるか」

「宍戸は知ってそうやな。ジローなんかは知ってても引っ掛かりそうやけど」
「うーん、ししろに髭眼鏡買ってあげようかな」
「何その確実にいらんプレゼント!!」

パンチガムを買うことにしたのか、樺地はそれを手に取り辺りを見回す。
「他…何か…」
「そうだな……、!!!
そこで、跡部の目が止まった。
その視線の先にあるのは、パーティグッズコーナー。
…の、中の、

「メイド服や……」
「ナース服だわ…」


跡部の視線に気付いたのか、樺地が口を開く。
「…あれ、に、します…か?」
「あ、い、いや別に、あんなもんに興味はねーんだぜ!?き、着こなす自信はあるけどな!」
「……じゃあ…着こなして、下…さい」

「女装どころかコスプレまで!!さすが私が見込んだカップルだわ!!」
「嫌ー!!嫌やあああ!!何で!?何で今日の樺ちゃんあないマニアック押しなん!!?」
素直に着てみたいって言われん跡部に気ぃ使とんのか!?
…それか、まさか本当にそういう趣味が…あああ、あかんあかん!!染まったらあかんよ侑士!!

「ま、まあ、安い生地なんだろうけどな!!たまにはそんな安物を着てみるのも、た、楽しいかもな!!」
「ウス」

「安物の方が気を使わずに存分に汚せ「おやめなさい!!!」
焼け野原に農薬振り始めたでこの人!!怖い!!
ちゃうねん…樺跡はピュアピュアやねん…やからこそこんなもん買うてしまうねん…って買うん!?樺地からの贈り物それ!?それとパンチガム!?



コスプレ衣裳×2とパンチガムの入った派手な袋を抱え、二人は駅へと戻って行った。
そしてまた電車に乗ると、派手な色の大きめの荷物が更に人目を引く。跡部は更に目付きが悪くなる。
ほら…今度は五十手前(推定)のおっさんがびびって逃げて行ったで。狩られる思て凄い形相で逃げて行ったで。

電車に揺られ、二人は明日の話をする。
「あ、明日は…何かあるのか?樺地」
「ウス、家族…で、出掛け、ます」
「そうか…」

「うわー、分かりやすくがっかりしとる」
「『家族みんな出掛けてお家に樺地君だけ』じゃなくてがっかりし「嫌ああああ!!!」
「うるさい湯」
周りの人に迷惑掛からんように最小限のアクションで眼鏡割られた。今日はまだよく持ったほうやと思う。

「ま、まあ楽しんで来いよ!」
「ウス。…早速、この服…着て、みます」
「そうだな、妹が兄ちゃん格好いいっつって喜ぶぜ」
「そう…だと、いい…ですけど」
「大丈夫だ、俺様の目に狂いはねーぜ」
「ウス!」
大きく頷く樺地は、分かりにくいながらもどことなく嬉しそうな顔やった。



樺地は跡部を家に送って帰って行った。
跡部はちょっと引き止めようとしとったけど、何やら今日は樺地が晩ご飯を作ることになっとるらしく、それを聞いた跡部は渋々頷いた。
俺もさんと別れて家に帰った。あんまり寝てなかったから早めに寝た。

…そして今。
七時半。
玄関のチャイムが鳴った。
せやけどおかんもおとんも起きる気配があらへん。
……あれ?何このデジャブ…と思いつつ横になっとったら、
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン ピンポン
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン

またか!!!
仕方なく玄関へ向かう。
その間も止まる事無く鳴り響くチャイム。
「はいはいはい」
ガチャリとドアを開ければ、尚もチャイムを押し続けようと手を掲げたままで
やっぱりさんが立っとった。

「早く出なさいよね眼鏡」
ただ一つ昨日と違うのは、さんがやたらでかい鞄を抱えとること。
「…いや、俺今眼鏡掛けてないし……それ何やの」
「道具持って来たから携帯改造しなさい」
「え……しなさいって、してはくれへんの?」
「あんた技術得意なんでしょ。自分でやりなさいよ」
「いや…まあ…」
改造はしたいんやけど正直めんどくさ…と思ったと同時に、さんはドアを押し俺の腕をくぐって家の中へと侵入を始めた。
「え、何?上がるん!?」
「とりあえずお茶出してよ」
「やっぱり!!」


その後。
俺が携帯を改造し終わるまでさんは我がもの顔で寛いどった。
そして数日後、俺は気付くことになる。

――ToKabaat2に、いつの間にかメイドコスとナースコスの18禁ルートが組み込まれていたことに…。
















次回、メール拒否をした宍戸が大変なことに!?お楽しみに☆ミ(※内容は変更になる恐れがあります。)(適当な次回予告)

2008.8.17