放課後。
…そうだ。そうだった。
部活があるのだ。

と言っても、私は帰宅部。
あるというのはあの二人が居るテニス部のこと。
二人が自然に傍に居られる時間ではあるが、私はまたフェンスの向こうから眺めることしか出来ないのだ。
……っていうかニンソクがテニス部なのがすっごく妬ましいんですが!!
仲良くドリンク飲む様を間近で見たり、部室であれやこれやな二人なんかも見られるわけでしょ?なんて羨ましい…!!
本人にそう訴えたら自慢げに鼻で笑われた。
むかついたので眼鏡割ってやった。
(昼休みの蹴りですでにヒビ入ってたし別にいいよね)(伊達だし)

しかしさすがに部室を覗くというのはちょっとアレだろう。ファンの子にレギュラーの半裸写真売り飛ばしたらいいお金になりそうだけどね…
仕方ない、とフェンスに寄り掛かり、部室からレギュラーが出て来るのを待つ。
…と、ポケットに入れていた携帯が震えた。
画面を見れば新着メール一件。
放課後にメールなんて珍しい…。誰からだ?
不思議に思いながらポチポチとボタンを押し、
「ふぐぁっ!!?」
私は鼻血を噴いた。
近くに居た女の子にドン引きされたがそれどころではない。
ちょ、ちょこれ何?何??
画面に映るもの、それは。
着替える樺地くんと、それを横目で見つめる跡部──…の、写メ。
差出人はシノビアシだった。ちなみにメール本文は「お花畑エロス」だけ。意味が分からん。
ボタンを押して返信する。
『決定的瞬間だね、ありがとう!今度ジュースでも奢るよ。
ニンタリ君はこれを生で見られたのかー、うわぁ羨ましいなあすっごく憎いなあ』
…送信、と。
それから一分も経たずに返ってきた返事には、「ごめんなさい」と一言だけ書いてあったのだった。


十数分後、部室からぞろぞろと出てきたレギュラー達。
…ニンソクが妙にボコボコだ。写メ撮ったのがばれて跡部に怒られたのだろうか。
練習開始の号令と共にジャージの塊が散ってゆく。
目立つ大男と、また別の意味で目立つハヒフヘホクロを目で追う。
距離があるからなかなか表情までは読み取れないのが残念だ。
やがてあちらこちらから、パコンポコンとボールを打つ音が響き始めた。
パコンポコンパコンバコッ
と、どこかで誰かの技が決まる度に傍の女の子達がきゃあと騒ぐ。
…何だかんだ言いつつ、跡部も樺地くんもテニスバカだから練習中は結構暇なのよね。
そう思った矢先打ち合いが止み、コートを移動しながら跡部が樺地くんをガン見していた。
……!!愛コンタクト!樺地くん気付いてあげて!
…ああ…このまま延々コート移動しててくれないかな。なんて思ってみる。
まあそんな願いが叶うわけもなく、すぐにまた打ち合いが始まってしまったのだけれど。
樺地くんも跡部の視線には気付いてくれなかったし…残念。


「休憩だ」
跡部がそう叫ぶと、部員達が気を緩めいくつかの溜め息が洩れる。
ベンチに近付く跡部を 後ろから樺地くんが小走りで追い抜いて行く。
そしてタオルとドリンクを鞄から出すと、跡部からラケットを受け取りそれらを渡した。
何というか、やっぱり息がぴったりだ。熟年夫婦…?
…主に樺地くんの甲斐甲斐しさの賜物のようにも思えるけど。
樺地くんは隣の鞄の中からもう一本ドリンクを取り出し、立ったままそれを飲み始めた。
いい飲みっぷりだなあ…
ベンチに座る跡部はと言うと、ドリンクの容器を握り締めたまま再び樺地くんをガン見。
こわいこわいめっちゃ見てる!獣が居るわ!
逃げて樺地くん…!いや逃げないで!と混乱する私の思いをよそに、樺地くんはドリンクを飲み干したのか鞄の傍に置いた。
そして跡部の視線に気付いて軽く首を傾げる。(かわいい)
跡部ははっとして顔を逸らし、慌ててドリンクを啜り始めたのだった。
…獣が乙女にメタモルフォーゼ…
テニスコートに乙女が居ます…





部活が終わり、レギュラー達は部室へと戻って行く。
空もすっかり夕日に染まって、辺りに群がっていた女の子達がだんだんと捌けて行った。
けれど私はフェンスに張りついたまま部室を見つめている。
二人、早く出て来ないかな…。
帰り道つけるなんて完璧ストー……いやいやいや。
あくまで公共の場所での二人を見つめるだけで、プライベートなお家の中まで覗いたりしないもの。
ストーカーなんかじゃない…!…たぶん!

そう自分に言い聞かせていると部室のドアが開いた。
誰だろう、と見ていると 出てきたのは赤みがかったおかっぱの男子だった。確か…がくと?とかいう奴。ニンソクとの会話で何度か耳にした名前だ。
その後をのそのそとついて来たのは金髪天然パーマ。パンツで試合してた奴だっけ。眠そうな顔をしている。
うちのテニス部にしちゃ小柄な二人が去って行き、今度は短髪とでかい銀髪が出て来た。
…この二人もなんか怪しいのよね…。まあ、十分イチャこいてるし応援の必要は無いか。
そう思いつつ目を逸らすと、再びドアが開きようやく目当ての二人が現われた。
…その後ろにシノビアシが居るのがちょっと邪魔です。
跡部は鍵を閉めると樺地を引き連れ新館へと歩き出した。
手に部誌を持っているから、恐らくそれを提出するのだろう。

さん!」
ニンタリはと言うと、声を上げて手招きしながらこちらへ寄ってくる。こっち来るんなら別に手招きしなくていいんじゃないの…
「帰りも見守ろな」
「おー、ラジャー」
「…『ブ、ラジャー』やないん?」
「うるさいエロメガネ眼鏡フレーム叩き折るわよ」
「すんません」
足元に置いていた鞄を持ち上げ、新館の傍の木陰へ向かう。
そこへ身を潜めると、丁度用事を済ませたらしい二人が玄関から出て来るところだった。
相変わらず樺地くんの背には鞄が二つ。
「ということは」
「やっぱり一緒に帰るんやろうなあ」
「どこのラブラブカポーだって話よね」

二人の話し声が聞こえてくる。
「きょ、今日はどうする?またどっか、寄るか?」
奥さん、帝王様がどもってらっしゃいますよ。
昨日もこんな流れであの店に居たのだろうか。
「ウス…跡部さんがどこか、行きたいところ…あるんでしたら」
「お、俺か?…俺、は、別に」
はっきり言えよ!一緒に居たいんだろうが輝けホクロ!
そうはやし立てたくなるがぐっと堪える。
「…じゃあ、あんまり暗くなっても、危ないので…」
「!!…そ、そう、だな……ああ」
か、樺地くん、酷い…!
確かに跡部美人だし、夜道は危ないかもしれないけどさ。……いや?跡部と一緒な樺地くんの方が夜道危ないんじゃ…!?
と一瞬トリップしかかったが、シノビタリ(清純派ラブロマ樺跡推奨)が私の頭をぐわしと掴んだので戻ってこれた。痛いです。

帰途を行く二人をこっそりと尾行する。
跡部は僅かに肩を落としているようにも見える。何だか可哀相だ。
ちなみに樺地くんはさり気なく跡部の横──車道側を歩いている。男の鏡ですね。
が、しかし。
車道側でない方にも危険はある。

「でな、その時マルガレー─うおっ!?」
我が家の犬自慢for樺地を披露していた跡部の足が、あろうことか排水溝に落ち…る、と思ったところで。
「!??」
「あ、怪我、ありませんか」
そう尋ねる樺地くんの腕の中に、跡部が。

「ぎゃ───────!!!!!」
「ぎゃ───────!!!!!」
思わず小声で絶叫する私とオシソク。
こういう時のための改造携帯(写メ撮っても音がしない)で激写する。
跡部は樺地くんを見上げたままぽかんと口を開けている。頬を染める余裕すら無いらしい。
「…跡部さん?大丈夫ですか」
返事の無い跡部を心配したのか、樺地くんが再び声を掛けると跡部ははっとして身を退いた。
ばか!もっといちゃついとけ!とも思ったが、あのままで居たら跡部はショートして帰らぬ人になっていたかもしれない。
「だ、大丈夫だ。ったく危ねぇよな!蓋がずれてんじゃねーか」
跡部は上擦った声でそう言い、足で蓋を閉めるがその顔は隠せないほどに赤い。

「ロマンスゲットォ…!!」
「ああこれもう待ち受けにしよう…!」
「俺にもちょうだい!」
「分かった、後で送るよ」
臨時樺跡祭り(小声)を開く私たちを更なる幸せが襲う。

頬の赤い跡部を見てか、樺地は不思議そうな顔をすると跡部の額にぴたりと手を置いたのだ。
「お熱ありませんか─────!!!!!」
「あなたにお熱です─────!!!!!」
発狂(小声)する支援会ナンバー1と2。
しかし私達などとは比べものにならないほど昂ぶっているのは、勿論。
「ば、ばばばバカ!熱なんかねぇよ!」
跡部は叫ぶと、ばっと樺地の手を振り払った。…あ、写メ撮れなかった…!
居た堪れないのか、跡部は樺地を置いて先を行き始める。
…が、その足元はどう見てもふらついていて。
樺地くんが見下ろす跡部は耳まで真っ赤に違いない。
















なんか崩壊してきました。
改造携帯は色々問題だと思うので真似しないように…(でもあれちょっと音でかすぎるよね!)

2006.12.14(2009.04.10修正)