チャイムが鳴り、辺りがざわめき始める。
そんななか俺は菓子パンとパック牛乳を引っ掴んで教室を飛び出したのだった。
「ちょ、忍足!早く早く!」
手招きするさんのもとへ急ぎ、跡部のあとを追う。完璧ストーカー…あ、いやいやちゃうねん。これは大切な部長兼生徒会長さんの手助けのために必要なステップやねん。
今日は朝から二人の登校を見守ったのち、一応のことを考えて休み時間の度に跡部の教室前で待機していた。
まあ、特に跡部に動きは無かったわけやけど…
今。昼休み。
跡部が弁当を抱えて教室を出たというんやからこれは追わないかんやろ。
「どこ行くんだろう」
「さあなー、さすがに今まであとつけたことはなかったから分からんわ」
若干早足気味にも見える跡部が向かった先は…中庭。
この時間は皆、教室か交友棟で昼食をとっているからここにはあまり人は来ない。現に、今も居るのは俺達三人だけのようだ。
そんななか、跡部は備え付けの椅子の上にハンカチを敷き腰掛ける。
小さなテーブルの上に弁当箱を乗せ、それを包んでいた大きな布を広げクロス代わりにした。
そして左腕につけた時計を見つめた後、チッと舌打ちをしたのだった。
極力音を立てないよう、跡部の近くの木の陰に隠れてその様子を見ていると
向こうからやってきたのだ。
そう、……樺地が。
「うーわあああ」
「お昼休みラブラブランチやー…!」
小声で騒ぐ俺たちには気付いていないのか、
樺地はテーブルを挟み跡部の向かいに腰掛けた。
「おせぇぞ」
「すみません…授業が…少し、延びてしまった…ので…」
申し訳なさそうに大きな身体を縮こまらせる樺地を見て、跡部も歪めていた口元をふっと緩めた。
樺地もテーブルに弁当箱を乗せ、蓋を開ける。
「今日のもお前が作ったのか?」
「ウス」
「…それ美味そうじゃねえの、一個くれよ」
跡部は樺地の弁当を覗き込み、色々な具を混ぜてあるのだろう綺麗な色の卵焼きを指差す。
「甘えたさんがいらっしゃるよ…!」
「あれ樺地が作ったんか…器用やねえ」
「ウス。お口に合うか、分からないですけど」
その言葉を聞き、跡部はひょいとそれを口へ運んだ。
「やっぱり料理上手いな、お前」
口を動かし飲み込み、満足そうににっと笑う。
そんな跡部を見て樺地も嬉しそうに微笑んだ。(…たぶん)
「仲ええね…」
俺も昼飯にしよう、と音を立てないようにパンの袋を開ける。
「ほのぼのするわー。…あ、私食べるもの忘れてきちゃったから一口ちょうだい」
「ええよ…って一口でかっ!!半分なったやんか!!」
ぎゃいぎゃいと、しかしあくまで小声で騒ぐ俺たちにはまだ気付かないようだ。
樺地は軽く手を合わせてから弁当に手をつけた。
豪快に、でもマナーは守って綺麗に食べる姿は樺地らしい。
そんな樺地に、今日の授業のことなどをあれこれ話し掛ける跡部。
相槌はほとんど「ウス」のみなのだが、跡部の顔をじっと見ているところをみればちゃんと話を聞いているのだろう。
その樺地が缶のお茶を出し、プシュッと音を立てて開けて口をつける。
と、途端に跡部の目付きが変わる。
「な…なあ樺地。それ、一口くれよ」
「あ、お茶が欲しいんでしたら、買ってきます」
「あ、いや、いい!そんなにたくさん飲みたいわけじゃねえから」
慌てて樺地を引き止め座らせる跡部。
あれはやっぱり…
「…間接キッス目当て?」
「そうみたいだね…乙女ホクロが居るわ…」
「?…じゃあ、飲みかけでよければ」
そう言い樺地に缶を手渡され 跡部はいそいそとそれを飲み、樺地に缶を返して再び弁当を食べ始めた。
暫らくして 同じように弁当を頬張っていた樺地がお茶に手をつけ一口飲むと、そちらを盗み見ていた跡部はにんまりとほくそ笑んだのだった。
…なんやわからんけど、もう…素晴らしいわ!
好きとか言わんでももろばれやん!
樺ちゃんは気付いてへんの…?あ、もしかして告白待ちなんか?意外と悪いオトコやね!!
「じゃ、行くか」
「ウス」
弁当を食べ終わった二人は席を立ち、どこかへと歩いて行く。
会話からして、すでに習慣となっているかあらかじめ約束していたのだろう。
音を立てないよう気をつけつつ、さんと共に後を追う…ってちょい待ちぃ!袋空っぽやんか!!
「ちょ、パンは!?」
「あ、二口食べちゃったんだ。ごめんね」
えー……!
グッバイ俺の昼飯。美味しかったよ、とかそんな報告どうでもええから!
ていうか二口で菓子パン食ってしまう人初めて見たわ…
「何ぼさっとしてんの忍足、早く!跡部達見失っちゃうよ」
…なかなか鬼畜やな、さん…
消えた昼食の残骸(パンの袋)を見つめ、軽く落ち込みながら 慌てて二人の後を追った。
間接キッスベッタベタ正攻法。
2006.11.18