「いや、昨日はいいもの見ましたねー」
「ほんまですなあ」
現在地、学園校門前。
植え込みの陰に身を潜め(忍足ははみ出ている)昨日のことを振り返る。行き交う生徒達の視線が痛いが、まあそこは気にしちゃいけない。
「口拭いてあげたりさぁ…」
「ナイフとフォーク出せ言うたんにはびびったけどな」
ファーストフード店で例の二人に出くわしたその後。
結局四人でテーブルを囲むかたちとなり、例の二人が仲良く軽食をとるところを間近で眺めることが出来たのだった。
跡部さまが頼んだ…正確には樺地に頼んでもらったものはハンバーガーだった。
ボンボン跡部はそれを食すのは初めてだったらしく、いきなり「ナイフとフォークはねぇのか」と言って私と忍足を笑わせた。
樺地に食べ方を教わったり口の周りにソースをつけたりという学園ではまず見られない跡部の姿まで拝めたし、昨日は発足初日にして大収穫だったと言える。
…そして、今日もばっちり収穫してやろうじゃないかという決意のもと、会員ナンバー1と2はこうして校門前で帝王と従者の登校を待っているわけである。
「樺地くんもほんと甲斐甲斐しいよね。跡部が羨ましいわ」
「こらこら、樺地取ったら跡部が泣いてまうよ」
「いや、取れないでしょ…。っていうかそんな恐ろしいこと出来ないよ、跡部権力フル動員で報復されそうだもん」
「あぁ…確かに」
その時、門の外で僅かにきゃあと女子の高い声が上がる。
「おっと、お出ましやなー」
「ちょっと忍足…もう少し寄ってよ、見えない!」
「これ以上寄ったら全身はみ出てまうやん、隠れとる意味ないやんかっ」
昨日はうっかり二人きりの時間を邪魔してしまった。
しかも、何だか少し跡部に警戒されてしまったようで…
だから今後はなるべく陰から普段の二人をウォッチングする、ということが方針として定められた。まあ会員二人だけなんだけどね!
そして二人の関係をしっかり把握してから出来る限りの支援をするのだ。
「跡部様だ」「おはようございます!」等々の言葉を投げ掛けられながら、無駄に長い脚をフル活用して悠々と歩いてくるチャームポイントは泣きボクロ。
そして、その後ろには二つの鞄を肩に掛けた大きな従者の姿。
会話はないが、歩調など息が合っているように思える。
「ほんと、どこでもいっしょだね」
「ひっこ抜かーれて、あなただけについてーゆく」
「今日も、運ぶ、戦う、増える、そして食べーられ、って駄目じゃん!あ、でも跡部に食べられ…」
「ピク●ンからそこまでイマジネーション膨らます人初めて見たわ…さすが俺の相方やな」
「相方になった憶えはないよ」
他愛無さすぎる会話を交わしつつ、校舎へと向かう二人の後ろをそっと尾行する。
靴箱では樺地が跡部の靴を出して並べてあげ、(跡部、あんた手ぶらなんだから靴くらい出しなさいよ)
そのまま廊下を通り、向かった先は三年の教室。
ここは決して二年の教室までの通り道というわけではない。
樺地くんはついで、ではなくわざわざ毎朝遠回りして跡部の荷物を運んであげているのだ。なんて優しいのだろうか…
教室の入り口で跡部に鞄を渡すと、樺地くんはぺこりと頭を下げてもと来た道を戻って行く。
……そして、その背中が進む方向を変え、壁で隠れてしまうまで見送る跡部。
「…お前はどこの恋する乙女やねん…」
「樺地くん、一回くらい振り返ってあげてー…!」
私の叫びも、跡部の視線も虚しく、樺地くんはすたすたと歩いていってしまった。
「ツンデレか」
「あ、なるほど」
樺跡会の半分はポジティブシンキングで出来ています。
その時、着席を促す予鈴が響いた。
「おっと、じゃあまた後でな」
「うん」
跡部が教室に引っ込んだのを見届け、忍足と分かれそれぞれの教室へと入る。
どちらも跡部とは別のクラスなのが残念なところだ。
会員勧誘するなら跡部と同じクラスの人にしよう、などと思いながら席に着いた。
何故か どこでもいっしょ→ゲーム→ぴくみん と思考が飛んだ
2006.11.18