「それではこれよりー、『跡部と樺地を陰から見守り二人の関係をそっと支援する会(ストーキングちゃうよ!)』、
略して『A・K・K・M・F・K・S・S・K(S!)』の会合を始めようと思います」
「略しても長いよニンソク」
「まあ気にするなや。ちなみに俺はニンソクやのうてオシタリやからね」
「ていうか会合って言っても私とシノビアシ二人だけじゃん」
「まあ気にするなや。いきなり『樺跡応援せーへん!?』とか聞いてまわれんやろ…これから地道に増やしていこ。
ちなみに俺はシノビアシやのうてオシタリやで」

まさかの出会いから─―実はまだ僅か数十分しか経っていない。
テニス部の活動終了後、は忍足に連れられてファーストフード店にやってきていた。
目的はA・K・K(以下略)の会合。
しかし先程が言っていたように、会員は二人のみだ。

「…で、実際のところあの二人はどうなの?」
ずずいと身を乗り出す
「うん、それやな。まず跡部が樺地のこと好きなんは95%間違いないと思うわ」
忍足もずいっと身を乗り出す。
カップルとは明らかに異質のオーラを放つ二人が額を突き合わせて薄く笑いを浮かべている様は、正直不気味だ。

「あー…樺地くんへのメッセージのためだけに東京ジャックしちゃったもんね、あの泣きボクロ…会場飛んだ時は驚きと笑いで死ぬかと思ったよ」
「ああ、さんもあん時居ったんかー。ほんまビックリ発想もええとこやんなあ。
そうそう、そんでやな、その件で冗談混じりに跡部に『樺地のこと好きなん〜?』って聞いてみたことあんねん」
「おお、それで?跡部はなんて?」
は更に身を乗り出し瞳を輝かせた。
忍足はそれにニヤリと笑い返す。

「飲んどったドリンク鼻から吹きよった」

………。
「え…鼻から?帝王なのに!」
「まあ、吹いたっちゅーか鼻に流れ込んだんやろ。暫らく痛そうに鼻のあたり押さえとった」
「…何ていうか、その…ものすごく分かりやすい動揺っぷりだね」
知られざる跡部の一面を知ってしまった

「んで、それからどもるどもる。
『おおおおれさまがかばじをすすすきなわけないだろあっまあてにすのさささいのうはかなりあるからきにいっていいるのはたしかだがそそそそれにかなりむかしからのなななじみだしな』
みたいなん延々言うてた」
「うわあ…わかりやすー…。何でもないなら普通笑い飛ばすなり聞き返すなり…」
「やんなー。あとは…家庭科の教科書熱心に読んどるから何やろって後ろから覗いたら牛丼のページやったりとか。
で、俺が見とるんに気付いたら顔真っ赤にして慌てて教科書閉じよるねん」
「うわっ…かっわいい。意外と健気なんだね」
テニス部は氷帝の部活の代表と言っても過言ではない。
そのため、レギュラーは度々新聞部からインタビューを受けている。
そしてインタビューの質問が尽き、最近ではテニスと何の関係もない レギュラー個人のプロフィールなどが載っていることも多い。
はそのインタビュー記事をよく読んでいるため、樺地の好きな食べ物が牛丼であることも知っていたのだ。

「でもなあ、樺ちゃんのほうがいまいち分からんねん。あんま表情変わらんし」
乗り出していた体を引っ込めて呟く忍足に、確かに とも考え込む。
「異常に大事にしとるんは確かなんやけど…愛かって訊かれたらちょっと微妙な感じやなあ」
「愛とか言うなきもい」
「ヒドッ!!!」

そんな会話をしていると、店の自動ドアが音を立てて開く。
「あ」
「え?」
間の抜けた声を出す忍足が指差す方を振り返れば、
噂をすればなんとやら。
そこにはつい先程まで噂をされていた当人達が立っていたのだった。

「うわ、放課後デート目撃だよニンタリ!」
「ほんまや…跡部もこないなとこ来るんやな。ちなみに俺はオシタリや」
距離があるため何を話しているかまでは分からないが、注文の列に並び頭上のメニューを見ているようだ。
「何頼むんやろ」
「…あ、やっぱり頼み方分かんないのかな跡部」
列が進み、樺地が注文しつつ時折跡部を振り返り何か訊ねている。
そして、
「ねえ……あれは…やっぱり…」
「…やんなあ」
滞りなく注文を進める樺地の背中を 頬を染めてじっと見つめる跡部。
「…あれや、頼もしいなーとか思ってちょっと惚れ直しとんやろな」
「確かに、自分が分からないことをサクッとやってくれたらちょっとドキッとするよね……まあファーストフードの注文くらい誰でも出来るけど」
そんなときめき跡部を生暖かく見つめる樺跡支援会員ナンバー1と2。(ちなみにどちらが1かはまだ決まっていない)

注文が終わり、番号が書かれた札を渡された樺地がくるりと振り向く。
そして、熱烈すぎると忍足の視線に気付いたのかはっとした顔をして会釈をしてきた。
そんな樺地を見て跡部もようやくこちらに気付き、僅かに顔をしかめた。
「うわ気付かれたよオシアシ」
「ほんまや…ラブラブデート邪魔してもーたな。ちなみに俺はオシタリやで」
忍足はひとまず手を振り応える。
すると跡部がつかつかとこちらへと歩み寄ってきた。樺地もその後ろをついてくる。
「アーン?なんだ忍足、デートか?見ねぇ顔だな、誰だこいつは」
です以後よろしく。跡部くんもデート?」
「!!?」
「ぶふっ」
の言葉に豆鉄砲をくらったような顔の跡部…と、その光景に思わず吹き出す忍足。
跡部の顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。
「っな、なにがデデデデートだバカ!そんなんじゃねえよ!!バカ!!」
面白いほど分かりやすいな…とはもはや感心の域にまで達してしまう。
当の樺地はというと、跡部の否定を言葉通りに受け取っているのか無表情のままだ。

「まあまあ、仲良くダブルデートといこうや」
「だ、だからデデッデートなんかじゃねえっつってんだろこの眼鏡!!叩き割るぞ!!」
「ヒドッ」
「あ、ちなみに私とシノビタリはデートとかじゃないから。冗談でもきついわ」
「ヒドッ!!…ちなみに俺はオシタリですんでいい加減覚えてください」
騒がしい店内に店員さんの元気な声が響く。
「3番でお待ちのお客さまー」
「あ、呼ばれたので、取ってきます…」
大きな身体の二年生はぺこりと頭を下げて、受け取り口へと向かっていった。


──こうして、この日。樺跡支援会はめでたく(?)ひっそりと(?)発足したのだった。


















2006.11.18