忍足侑士は気付いてしまった。
フェンスの向こうの少女が、自分と同じタイミングで一喜一憂していることに。



フェンスの向こうにひしめき、黄色い声を上げる女の子たち。
その中のたった一人に何となく目が止まった。
正直うるさいその集団の中、ただ一人、じっと口を閉ざしたままコートを見つめる子が居たから。

…確か隣のクラス…さん?
その目線の先を追えば、そこに立っていたのは跡部。
…なんや、結局周りのうるさい子達と同じかと目を逸らそうとした時、
さんはふと寂しげな表情を浮かべた。

そして目線が動き、その先には─…樺地?
さっき見てたのは跡部ではなくて、本当はその隣の樺地だったのか。
なかなか見る目あるやん
そう思ったが、暫らくするとまたさんの視線が大きく動き、今度は跡部を眺めはじめた。

結局どっちのファンなんだ、と思っていると 休憩の号令が掛かった。
途端、さんはきょろきょろと跡部と樺地、交互に視線を走らせ 樺地が跡部にタオルを渡した瞬間 ふんわりと微笑んだのだ。

…まさか。

そう心の中で否定するも、僅かな期待が膨らんでいく。
決まったわけじゃない、ただの偶然や、
そう自分に言い聞かせつつさんを見ていたが
さんと跡部と樺地、その三人の動きを見れば見るほどそれは確信に変わっていった。




部活終了後、俺は今までにない早さでコートを飛び出した。
さん!!」
大声を上げて爆走する俺に、女の子達が驚いて逃げていく。
さんも例外ではなく、目を見開いて後退りしていた。
…そんな鬼気迫るような顔してたんやろか、俺。

「…さん、やんな?」
「う、うん?」
辺りには他の女の子がたくさん居るし、爆走したせいでかなりの注目を集めてしまっている。
…ここでこの話するんはちょっとアレやな。
仕方ない。
俺はハテナを飛ばすさんの手を引いてコートから少し離れた場所まで連れて行った。

「ごめんな、今からちょっと変なこと訊くけど…もしピンと来んかったらすぐ忘れてな」
「?…わ、分かった」
「えーと…。そやな、『ケー・ビー・エー・ティー』…て分かる?」
「ケ、K…B、A……?………えっ」
怪訝な顔をしていたさんが、ばっと顔を上げる。
「わ…分かってくれた?もしかして」
「え、え?まさか、」
「多分そのまさかやで!」
「もしかして、その…うーん……従者×帝王…?」
「そうそう!15cm差年下攻め!」
「アンドロイドとホクロとか!?」
どちらからともなく手を取り見つめあう。
キラキラとお互い瞳を輝かせ、そのまさかの確認をした。

…ありがとう、ありがとう運命!ありがとう奇跡!!
まさか、まさか隣のクラスに仲間が居ったなんて。


その日から、さんと俺は唯一無二の仲間となったのだった。
…そう。跡部と樺地を陰から見守り二人の関係をそっと支援する会(ストーキングちゃうよ!)の会員として。
















無駄な結束。

2006.11.18