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注意
跡部さんのことが好きなモブ女子(2年)視点。
私の恋は一年半前、桜舞う季節に始まった。
「跡部先輩、好きです!付き合ってください!」
そして、今――
「…悪いな。気持ちだけ貰っておくぜ」
――…終わった。
「…な…」
足元の落ち葉が、乾いた音を立てる。
「なんでですかぁっ!?」
校門の前、近くを歩いていた人たちが振り返る。
そりゃあ、できればもっとムードのある、静かなところが良かったんだけれど…
…呼び出せるほど、きっと跡部先輩は私のことを知らない。
そう思って、帰り際の跡部先輩を待ち伏せて声を掛けた。
「なんでって言われてもな」
「理由くらい聞かせてくださいよー!」
今日のために、自分なりに勉強も部活も、ダイエットも頑張ってきたつもり。
跡部先輩に釣り合うにはまだまだ遠いとは分かっているけれど、
…理由くらい、聞かせてくれたっていいと思う。
じっと青い目を見つめていると、跡部先輩は顔をしかめて小さく息を吐いた。
「…好きな奴が居るんだ。すまねえが」
「ええええええっ!!跡部先輩、彼女!いるんですか!!?」
だってだってだって、クレマチスのインタビューでは彼女いないって!
あれはリップサービスだったの!?
ていうかこんな目立つ人の彼女がこれまで全然噂になってないとか逆に凄すぎない!??
近くの女子たちの視線を一身に浴び、跡部先輩は今度は大きく溜め息をついた。
「いねえよ」
「えっ、ふ…振られたんですか…!!?跡部先輩なのに!?」
「ばっ、失礼なこと言うな!!振られてなんかねえ!」
「ええっ、じゃあ、じゃあ…まだ告白もしてないってことですか!?」
「………三日前にしたんだよ!!」
「ええええやっぱり振られたんじゃないですかああ!!」
「違うっつってんだろうが!保留にされたんだ!!」
「跡部先輩なのに!!??」
「ああそうだよ悪かったな!!!」
そう吐き捨てると、跡部先輩は前髪をくしゃりと掴んで少し視線を落とした。
耳が真っ赤だ、ちょっと可愛い。
「…誰なんですか?それ」
「アーン?んなもん聞いてどうする。嫌がらせでもする気か?」
「しませんよ!!…ただ、その人にちょっとでも、近づけるようにって」
「………」
「誰にもばらしませんから!」
両手を合わせて頭を下げたけれど、跡部先輩はフンと鼻を鳴らしただけだった。
「…うぅ、跡部先輩のケチっ」
頬を膨らせてそっぽを向くと、黄色く色づいた木々が視界に入る。
…一年半前のあの日には、この桜の木にも花が咲いていて。
空も真っ青で、すごく綺麗だったな。
そう思って、今は真っ白な空を仰ぎ見た――
「…うわっ樺地くん!!!」
「アァン!?」
私が急に大声を上げたからか、跡部先輩の肩もびくっと跳ねた。
「樺地くん、いつからそこに!?」
「何言ってやがる、最初から居るだろうが。全く失礼な奴だぜ。なあ樺地?」
「ウ…」
「ほ、本当に?ごめん、緊張してたから…」
「ウス」
よかった、怒ってはないみたいだ。
一年の時にクラスが一緒になって以来、跡部先輩へのプレゼントを渡してもらったり、樺地くんには何かとお世話になっている。
…なのにすごく失礼なことを言ってしまった。
それにしても、跡部先輩が生徒会やテニス部から引退しても一緒に居るんだなあ。
そういえば、氷帝…と言うか、日本に来る前からの友達だって聞いたことがある。
「!!」
「…どうした」
「ねえ樺地くん!樺地くんなら知ってたりしない!?跡部先輩の好きな人!!」
ゲホッと跡部先輩の咳き込む声がして、普段表情が分かり辛い樺地くんの目が見る見るうちに丸くなった。
「やっぱり知ってるんだ!お願い!言いふらしたりしないから!!」
「ウ……」
樺地くんが、窺うように跡部先輩の方を振り返る。
跡部先輩は咳払いして「…お前の好きにしろよ」とだけ言って、先に歩き出してしまった。
「……」
「……」
樺地くんは眉毛を下げて、視線を泳がせている。
…なんか、申し訳ないことしちゃったかな。
「…やっぱりいいや、ごめんね」
「ウ、ス」
「跡部先輩が秘密にしてるのに言えるわけないよね。無理言ってごめん!」
「…ウス」
「誰だか分からないけど、その人によろしくね。いつか勝てるように頑張るから!!」
ガッツポーズを作って笑顔を向けると、樺地くんはちょっと困ったような、何とも言えないような顔をしていた。
――少し遠くから、跡部先輩が樺地くんを呼ぶ声がした。
彼
女
は
ま
だ
、
何
も
知
ら
な
い
2012.11.6