――今年は忙しくて、来るのが少々遅くなってしまった。
雪に変わりそうな雨の中、大きな窓からは不釣り合いなほどの明かりが漏れる。
俺は真っ白い息を吐くと、その建物へと足を踏み入れた。
プレゼント申請所。
サンタクロースにプレゼントを頼む施設だ。
基本的に、そこで申請したプレゼントがクリスマスの朝に届けられている。
不可能を可能にする俺様でも、この年になるまでサンタクロースの姿を確認したことはない。
毎年音もなくやって来る技術は大したものだ。
待合所には子供へのプレゼントを申請しに来たらしき若い夫婦や、友達と騒ぎながら申込書に記入している小学生たちが溢れている。
子供と言える年齢であるか、今年一年良い子であったかなど、プレゼントを貰う資格があるか簡単な審査もされるのだが、まあ当然、俺様はこれまで毎年クリアしている。まだ未成年だしな。
今まで散々、格好いい船の模型だとか、二人で遊べるテニスコートだとか好き勝手頼んできたが、サンタクロースは見事に全てを叶えてくれた。
だから今年は、
少し欲張ってみることにした。
今年のプレゼント希望を記入して、待合所のベンチに座る。
受付の奴らはどう思うだろうか。
来年以降のプレゼント権が剥奪されてしまうかもしれないな。
…それでも。
「サンタさん…すごい、ね」
目を輝かせて、あいつも言ったんだ。
賭けてみるのも悪くはねえ。
暫く後、受付の女性に名前を呼ばれた。
…しかし、これまでと少しばかり様子が違う。
いつもなら申込書を持って微笑んでいるはずなのだが、今年はどうにも顔が曇っている。
「跡部景吾さん…申し訳ありません。残念ですが、こちらのプレゼントはお引き受け致しかねます」
眉を下げた受付係は、更に言葉を続ける。
「矛盾を生じるようなプレゼントはお取り扱いできないんです。先に申し込んだ方を優先することになっていますので」
そう言って差し出された二枚の申込書を見て瞠目する。
申込者名と、プレゼントの内容と。
並ぶ二つの名前。
――そしてそれが逆転した、もう一枚の申込書。
突き返された申込書をくしゃくしゃに丸めて、白い息と共にもと来た道を戻る。
今年は何も貰えないが、気分は悪くない。
知らず、足が速まる。
「……今年は俺がプレゼント、か」
弛んだ口許から、白い息が細くのぼった。
なんだこの変なファンタジーみたいな世界観…
2009.12.25