時刻は夜七時、場所は部室。
降りしきる横殴りの雨に、あの人と俺は帰る手段を失くしていた。
あの人のお家の人が迎えに来てくれるのは十五分後、その間皆のユニフォームを繕うことにした。本当は明日、やろうと思っていたのだが。
降り続く雨の音が、この空間を包み、守り、作り上げている。
うるさいはずのそれは静けさをもたらし、互いの息遣いひとつひとつが聞こえるようだった。
あの人はソファに腰掛け、先程からずっと本を読んでいる。
ユニフォームの繕いも終わってしまった俺は他にやることもなく、特にその必要もない棚の整理を始めた。
これからはあの人を見習って、本の一冊でも持ち歩くようにしようか。

そう思いながら、並ぶビデオを一本引いた瞬間。
薄暗い室内がぱっと光る。
次いで、静寂を裂く雷鳴。
「…雷か」
「ウス」
「近いな」
「…ウス」
一瞬の光に眩んだ視界がじわりと滲んで融けて行き、また、訪れるぼんやりとした陰。
しかし、空はまた降りる青白い光のために灰色に蠢いていた。

こんな時。
ふと、妹のことを思い出す。
雷が鳴ると怯え、俺にしがみついて泣きじゃくっていた。
まだ幼い背中をとんとん叩いてあやしていると、ほんの数秒、停電になって、また一段と泣き声が大きくなることもあった。
『崇弘くんは偉いわね』なんて言われたが、何が偉いのか分からなかった。

だって俺は、妹のこと、とても大切だから。

そして、今、あの瞬間が少し恋しくもある。
今、この人が恐いと泣いてくれたらどんなにいいだろう、なんて。
そんな考えが浮かんでしまう自分が少し恐くなるけれど。
何となく、深く考えてはいけない気がして、その一瞬の思いを振り切るように頭を振った。
ビデオを棚に戻し、ふと窓の外を見れば、再びの青白い光。

「稲妻…綺麗、です」
思わず漏れた、独り言にも似た呟き。
それに反応し、俺のもとへと届く青白い視線。
薄暗い空気に阻まれることなく、真っすぐに俺の目に届く。
「そうだな」
俺の視線も、その青さへ届くだろうか。

お迎えが来るまであと五分。
できるならこの空間を瓶に詰めて飾っておきたいと、強く願った。



射抜くような突然の青白い光。
それが恐いという人も居るけれど、
俺は、好きだ。
















甘やかしたい樺地。

2009.3.17