時刻は午後七時、場所は部室。
土砂降りの雨に、俺とあいつは帰る手段を失くしていた。
迎えの車は十五分後、暇潰しの本を持っていたのが幸いか。
降り続く雨の音が、この空間と外界とを遮断している。
耳障りなはずのそれは先程から続く沈黙を守るように、静けさをもたらしていた。
あいつは暫らく、部員達に預けられたほつれたユニフォームを繕っていたが、もうそれも終わってしまったのか、棚のビデオの整理を始めた。
普段からまめに管理しているのだから、特に整理するところなどないだろうに。

そう思いながら、向けた視線を再び本へと戻した瞬間。
薄暗い室内がぱっと光る。
次いで、静寂を裂く雷鳴。
「…雷か」
「ウス」
「近いな」
「…ウス」
身体に響いた音がじわりと滲んで消えて行き、また、訪れる静けさ。
だが、空はまた不穏な音を立て始めていた。

こんな時。
ふと、自分がまだ小さかった頃を思い出す。
雷が鳴ると怯え、泣きじゃくり、親や先生に縋りついていた周りの子供達。
その中でただ一人、悠然としていた自分。
『景吾くんは偉いわね』なんて言われたが、何が偉いのか分からなかった。

だって俺は、恐くないのだから。

しかし、今、その子供達が少し羨ましくもある。
今、恐いと泣けたらどんなにいいだろう、なんて。
そんな考えが浮かんでしまう頭の方がずっと恐ろしいというのに。
我ながら馬鹿馬鹿しい、と目を閉じ、ふざけた思いを溜め息に乗せて吐き出した。

「稲妻…綺麗、です」
ぽつりと漏れる、低い音。
空の音に掻き消されることなく、真っすぐに俺の耳に届く。
「そうだな」
俺の声もきちんと届くだろうか。

迎えが来るまであと五分。
できるならこの空間を切り取って置いておきたいと、強く願った。



身体を震わす低い音。
それが恐いという奴も居るけれど、
俺は、嫌いじゃない。
















甘やかされたい跡部。

2009.3.17