今年もこの日がやってきた。
「跡部景吾プレゼンツ・1月3日は一体何の日?そう何を隠そう素晴らしき俺様の樺地の記念すべき誕生日だお前らにもこの妖精が地に舞い降りた日を祝う権利くらいは与えてやろうファーッハッハッハ!!パーティーin跡部家」である。
広い部屋に集まるは、いつもの面々。
皆、各々用意したプレゼントを樺地に渡し終えたところであった。
──ただ一人を除いては。

「跡部、おっせーなー」
「な。プレゼントに準備なんていらねーだろ、普通」
「あの人は普通じゃないですからね…生憎…」
「何持って来るんやろ、恐いわあ」

跡部がプレゼントを渡す段になり、「準備をしてくる。俺様が居ない隙にお前ら樺地に妙なことすんじゃねーぞ!!!いいな!!!」と部屋を出て行ってから早十五分。
飽きっぽい向日や宍戸はとうに待ちくたびれていた。
芥川に至ってはドアが閉まった瞬間に崩れるようにして眠ってしまった。

「なー樺地ー、なんか面白いことやれよー」
「ウ!?…ウ……」
「やめてあげなよ岳人。樺地困ってるじゃない…『ちょっと面白いこと』くらいにしてあげなよ。はい樺地、どうぞ!!」
「あんたも一緒ですよ!!」
「頑張れ樺地!」
「ウ…ウ、……」

滝の無茶振りや鳳の無責任な応援に樺地が困惑していると、突然大きな音を立てて部屋のドアが開いた。
「待たせたな!!」
お、樺地の奴、無茶振りから逃れられてよかったな、と宍戸が思ったのも束の間。
ドアを振り返った瞬間、その思いは泡と消えた。


「さあ樺地!!プレゼントは、お…俺様だぜ!!!」

皆の目に映ったものは、赤いリボンを身に纏った跡部だった。


ミイラ男状態ならばまだいい。問題は、そのまばらな巻き方。
そして。
「…おい…あれ」
「…着てませんね」
「うわー……」
「不祥事もキミ次第やー…!!」
その下に見え隠れする素肌こそが、最大の問題であった。

「ほら、樺地」
「………?」
どんと構えているように見えながら、その実邪な様々な予想と思いが交錯し内心びくびくしている跡部。
そして、それを見て首を傾げる樺地。

「何よりの無茶振りきた……!!」
「何でよりによって皆居るところでやるんでしょうね」
「ほんまにな。望む結末へ辿り着く可能性が低くなるって気付かんのか」
「まあ、元からゼロなんだけどねー」
「…やべ…なんか…跡部可哀相すぎて涙出てきたぜ…」

いつもならば黙れ外野ァ!!!という怒声が響くところであるが、今日ばかりはそうもいかない。
「………」
「…ど、どうした。俺様がプレゼントだぜ?」
「ウ…?…あの、……跡部さんの、…何、が…?」
「なっ!!てめぇ、それを俺様の口から言わそうってのか!…やるじゃねえのよ。さすが俺様の樺地!!」
「?」

「いや、その状況なら普通に抱く疑問でしょう」
「うわ、跡部照れてる…きめー」
「樺地全然分かってへんし」
「頑張れ樺地!お言葉に甘えちゃいなよ!」
「無責任だな…お前…」

「だから、要はだ…お、俺様を、好きにしていいんだぜ!!」
なかなか本意を掴んでくれない樺地に焦りながらも、跡部は再びふんぞり返って命令にも似たプレゼントを突き付ける。

「激いらねえ!!」
「樺地もいらないって言わないかなー」
「いいですね。下剋上の先を越されるのは心外ですが」
「むしろ殴っちまえよ。好きにしていいっつってんだから」
「いや、あかん!それで跡部のM心に火がついたらどないするんや!」
「侑士きめえ」

樺地feat.下剋上を熱望する面々をよそに、樺地は暫し黙り込み、そしてはっと顔を上げた。
「ウス。失礼…します」
樺地は軽く頭を下げると、跡部の首元にあったリボンの結び目に手を掛けた。
しゅるしゅると音をたて、徐々に素肌があらわになっていく。

「開封や!!開封しよる!!」
「うわ……あ、一応下着はいてたんだな。よかったぜ」
「もう感覚が鈍ってきてますね。いつの間にか見慣れてた自分が恐いです」
「樺地!!据え膳食わぬは何とやらだよ!」
「気持ち悪いこと言うな!!」
どうせ跡部の思惑通りには行かないと分かり切っている皆は適当に騒ぎ立てる。

──ただ、仕掛けた張本人(と、無責任なロマンチスト)は違ったが。
「か…樺地……」
「ウス」
跡部は瞳を潤ませ、丁寧にリボンを解いていく樺地を見つめる。

「やりましたね跡部部長!!ついに…ついにこの瞬間が!!」
「だから何でそれを人前でやろうと思ったんだよ」
「まー…すでに俺らの姿なんか見えてねーみたいだけどな」

とうとうリボンを解き終わると、樺地は椅子の背もたれに掛かっていたガウンをそっと跡部に掛けた。
「…そうか…ムードづくりも大事だよな、樺地。さすがだぜ」
うっとりと言う跡部には返事はせず、樺地はぐるりと振り返ると、
「…失礼、します」
と言い、そこにあった箪笥を開けた。
「? どうした、樺地…… !! お前もガウンに着替えるんだな!?後のスムーズさを優先するとは…策士だな!!」
単笥に向かってごそごそと動いている大きな背を、跡部は満足気に見やる。

「何でこんなポジティブなんだろうな、こいつ」
「この後、キレたりしなきゃいいけどな」
「え?キレるって…『俺様と樺地の愛の営みを邪魔をするな!!出ていけ!!』って怒鳴るとかですか?」
「ちげぇよ!!」
「違うけど、跡部がキレる言うたらそれくらいしかないやろ…樺地のすることにはキレんて、あいつは」
正直これを見届ける義理はないのだが、わざわざ跡部の(恐らくは)理想通りに部屋から出て行ってやるのも癪だからと皆留まり、見物している。
更に、芥川がまだ目覚めないから と、外が寒いから というのも理由だ。

かたんと単笥の閉まる音が響いた。
樺地が振り返ると、その手にはこんもりと布──服が乗っている。
「…樺地?」
樺地は跡部のガウンを脱がせ、代わりに手に取ったシャツを掛けながら言った。
「ウス。…風邪、ひき…ます」
「………!!」

「跡部…!!可哀相すぎるぜ!!」
「そう言いながら笑ってやんなや」
「脱いで誘ったのに着せられてやんの!!」
「むしろ樺地の鈍さに感心するよ…やるねー」
「ナイス下剋上」
跡部に哀れみの目を向ける一同だったが、

「…樺地、お前は…優しいな」
「ウ、ウス…ありがとう、ござい、ます」
樺地にボタンを留めてもらい、弛みきった表情を浮かべる跡部を見て、即座に部屋から出て行くことを決心したのだった。

「結局樺地なら何でもいいんじゃねーか」
「いや、分かってた、分かってたけどな」
「まああれなら今年も何もなさそうだねー」

「…おいてめーら!!空気読むのは結構だが、ちゃんとジロー回収して行け!!」
遠くなる怒声を聞き、来年の跡部はどんなネタを披露するんだろう…とまだ見ぬアプローチに思いを馳せる一同だった。


















2009.1.3