その瞬間はこちら側の二人には大した感動ももたらさず、随分ぼんやりと訪れた。
「明けたな」
テレビの向こうで歓喜する人々を横目に、跡部が呟いた。
「ウス。…おめでとう、ござい…ます」
蜜柑をむきながら樺地が言う。
跡部は微笑み、それに応えた。
「樺地、蜜柑。よこせ」
「ウ、……」
自分用にむいた蜜柑なのに、むき終わった瞬間に要求するのはあんまりじゃないかなあ、と樺地は渋る。
「じゃあ口移しでいいぜ」
「……」
何がじゃあ、なんだろう。全く脈絡がないし、何の譲歩にもなっていない。
樺地は深く溜め息をつき、仕方なく蜜柑を半分に割ることにした。
いつも折れるのは樺地なのだ。
しかし、普段なら半分と言いつつ跡部には少し多めに分け与える樺地だが、今回ばかりはきっちり半分にしたのは彼なりの抵抗であった。
手渡された半分と、樺地の口に放り込まれる半分を交互に見、跡部は唇を尖らせる。
「…おい。口移しは」
跡部の手が樺地の頬に延びた。
…結局、樺地のためのもう半分も、跡部の腹に収まることになる。
だらっだらな二人。言わずもがな炬燵。
2009.1.1