かたん、と小さな音がした。
正しくは小さいわけではなく、遠い音であったが。
その音で目が覚めた樺地は、時計を見て首を傾げた。
深夜二時。
規則正しい生活をしている樺地家の人間は皆寝ている時間だ。
ならば何の音だろう?
不思議に思った樺地は、再び鳴ったその音の出所――階下へと降りていった。
もしもの時のため、手近にあったラケットを武器として携えて。
ぎし、ぎし、と、樺地の中学生に似つかわしくない巨体の重みを受け、階段が軋む。
階下に進むにつれ、先程の音はだんだんと大きく激しくなって行く。
近づいているせいだけではなく、音そのものも大きくなっているようだった。
がたん!
一段と大きな音が響き、樺地は肩を竦めた。
ただの風だろうか。ならばいいのだが…。
樺地は一歩、また一歩と慎重に廊下を進んで行く。
音の出所はどうやら台所のようだ。
覚悟を決めた樺地は、ゆっくりと台所のドアを開けた。
――すると。
暗闇の中、高い位置に動く影があった。
激しく動いているそれに樺地は息を呑んだ。
…だが、影は一定の位置から移動しない。いや、動けないのか。
暴れているように見えるそれが気になり、樺地は意を決して部屋の電気をつけた――
「!!」
驚きの声が、二人分。
「サ……サンタ、さん…?」
樺地の小さな眼に映ったものは、換気扇に引っ掛かったサンタだった。
「大丈夫、ですか?」
「お、おう」
そもそもここまでどうやって入ったのかなどと訊ねることも忘れ、樺地はとにかく彼を助けようと手を延ばした。
「…いや、助かった。ありがとな」
「ウス。痛いところとか…ない、ですか」
「ああ。…しかし油汚れもない、綺麗な換気扇だな。お前の家は」
「ウス…ありがとう、ございます」
赤い服。白い髭。
サンタと直接話せるなんて、と樺地は喜びと緊張でぎゅっと拳を握った。
その手をサンタが取る。
「そんなお前の一家五人、皆にプレゼントだ。ありがたく受け取れ」
渡された大きな袋を抱え、樺地は目を丸くした。
プレゼントが貰えるのは、確か子供だけではなかったか。
「皆に…ですか?」
「そうだ、お前の家族は皆いい人だからな。お前にはこれだ」
サンタはその袋の中から箱をひとつ取り出し、樺地の目の前で振ってみせる。
「お前…あの、跡部とかいう格好よく麗しい男と仲いいだろ?そいつと見たらどうだ。…いいな、絶対他の奴となんか見るんじゃねえぞ!!分かったな!!!」
「ウス。ありがとう…ござい、ます」
『見る』って、中身は何なんだろう?
跡部さんも好きな物なのかな、だったらもっと嬉しいな。
そう思い、樺地の顔は綻んだ。
「…じゃあ、俺様はそろそろ帰…次の家に行くぜ」
「あ、あの、よかったら…晩の残りです、けど、スープ…飲んで…行きません、か」
「いいのか?」
「ウス。外、寒い…です」
「…そうか。じゃあ、頂くぜ」
そんなのは口実で、ほんの少しでもプレゼントのお礼になれば、と思っていることは、サンタにはお見通しだった。
「いいな、うちのトナカイは恥ずかしがり屋だからな。絶対に外を見るなよ?」
「ウス」
出発の支度をしたサンタが言う。
…今度はちゃんと、玄関で。
「じゃあ、またな。メリークリスマス」
「ウス。ありがとう、ございました」
深々と頭を下げる樺地を満足気に見やり、サンタはドアの向こうへと消えて行った。
また来年も来てくれるだろうか。
また一年間いい子でいなくては、と樺地は深く思ったのだった。
題:「跡部不法侵入」。
そんなラジプリネタでした。
宇宙人信じちゃう樺地ならサンタも信じてるかな&正体には一切気がつかないかな、と。
2008.12.25