跡部景吾は必死だった。
ここ数年の中で一番必死だった。
日は十月四日、時は夕刻。
夏ならばまだ明るい時間だが、今やすっかり日は暮れて、ひんやりとした風が緩やかに流れていた。
そう、跡部の頬を伝う冷や汗を更に冷やさんばかりに。
今日は俺様の誕生日だ。
なのに。
なのにだ。
…どうして俺様に何も寄越さねえ!!
跡部の正面に立つ大柄な後輩は、祝辞は述べたが今日一日跡部に飴玉一つ渡していないのだ。
そのまま跡部の家の前で別れる段になり、それでもなお何も渡して来ない樺地に跡部はやきもきし、そして右往左往していた。
何故だ!!何故何も寄越さねえ!!
毎年何だかんだ、くっだらねぇ物寄越してたじゃねえか。
ま、まあ断るのも悪いから仕方なく貰ってやってただけなんだがな!
お、置き場が無いから仕方なく壁に絵を掛けて、本棚の上にボトルシップを置いてるだけなんだがな!!本当だぜ!!
だが、しかし、何かこう…何もないのも物足りねえっつーか…
べ、別に遠慮しなくていいんだぜ?俺様が迷惑がるとか考えなくていいんだぜ?
「か、樺地」
「ウス」
「………」
「………」
「………」
「………」
駄目だ!!!
ど、どどどどどどうするよ俺様?どうする俺様?
さり気なく言ったんじゃ鈍いこいつは気付かないかもしれねぇ…
…ここは思い切って、プレゼントはどうしたって、訊いて…みるか…
「樺地」
「ウス」
「プレ…、………イヤー」
駄目だ!言えねぇ…っ!!
「…ウス。跡部さん、も、自分も…テニスプレイヤー、です。明日も、頑張り…ましょう」
か、樺地…………!!
…じゃねぇよ!!!
何で今更俺様テニスプレイヤーだよな?って確認してんだ!!俺様がプロになったらお前を世話係に世界を回るぜ樺地!!
「樺地」
「ウス」
「プレ…、………ハブ」
またか俺様!!
「…何かで…必要、ですか?…出来ること、あったら…お手伝い、します」
か、樺地…………!!
…じゃねぇよ!!!
何で今あんなチンケな小屋の話をしなきゃならねえんだ!!ま、まあ別にお前が一緒に住みたいって言うなら住んだっていいがな樺地!!
「樺地」
「ウス」
「プレ…、………ジデント」
あ、ち、ちょっと惜しいんじゃねーの!?
「…目指すん、ですか?…応援、します」
か、樺地…………!!
…じゃねぇよ!!!
何で今俺様の将来展望について語らなきゃならねえんだ!!俺様がプレジデントになったら秘書はお前だ樺地!!
「樺地」
「ウス」
「プレ…、………ゼン、テーション」
ば、馬鹿俺様!!あと一息だったのに!!
だ、だがさすがにここまで来ればこいつも気付くんじゃ…
「…何か、会議とか…あるん、ですか?…頑張って、ください」
か、樺地…………!!
…じゃねぇよ!!!
何で俺様がプレゼンする側なんだよ!!だ、だがまあお前との今後についての案件ならプレゼンしてやらないこともないぜ樺地!!
「樺地」
「ウス」
「プレ…、………イステーション3」
掛け離れたーーーーーーーー!!!
な、何してやがる俺様!あと一息だったのに…!
「…あ、欲しかった、ですか?…すみ、ません。自分から、のは…ゲーム機じゃ、ない、です」
………ん?
「…お前、何か…あるのか?」
「ウ、ウス。…家に…」
「家?何でだ」
「おめでとう、ございます、って、早く…言いたくて、慌てて…忘れ、ました」
「…………」
か、かかっか、樺地……………!!!!
「フ」
「?」
「フフフ」
「?」
「フフフフフフファーーーッハッハッハァァァァァ!!!よし樺地!今からお前の家に行くぞ、いいな!!」
「ウ、ウス!!」
「ファーッハッハッハァァァ!!!」
跡部が可愛い義妹(予定)への格好いいお兄ちゃんアピールのため、無理矢理高笑いを飲み込むのは、この十数分後のことである。
2008.10.4