暑いなっつって、二人でコンビニに寄ってアイスを買って(ちょっと買いすぎたかもな)、こいつん家に上がった。
カップのアイスも買ったから袋の中には店員が入れたスプーンも入っている。
スプーンとは言っても、絆創膏の包みみたいな紙に入った板っ切れのやつだ。
これはどうも小さくて食いづらいから好きじゃない。せめてプラスチックのやつなら良かったんだが。
だから俺は我がもの顔でどっかりと腰を下ろし、クーラーを入れながら部屋の主にスプーンを持って来るように命じた。
アイスはどれを食べますかと訊かれて、レモンのかき氷のやつか抹茶のやつかと迷った挙げ句、俺はレモンにするからお前抹茶にして俺と分けろと言うとそいつはウスと頷いた。
図々しくて我儘放題な俺に文句一つ言わず、そいつはアイスの入った袋を提げて部屋を出て行った。
「何やってんだよ」
アイスを食べ終わってスプーンを見つめるそいつに問い掛ける。
「…スプーン、を…見てます」
「んなもんは見りゃ分かる」
何くだらねぇ事やってんだよと言ったつもりだったんだが、こいつは言葉通りに解釈したらしい。
「顔が、歪んで…面白い、です」
「まあ小せぇ頃やったがな…」
顔が逆さに映ったり、歪んで変な顔になったり。
座ったままこいつの隣に移動して、二人スプーンを覗き込む。
スプーンに映るのは、元からお世辞にも綺麗とは言えないのがますますひでぇことになってるこいつの顔と、めちゃくちゃ伸びた俺の顔。
どちらからともなくくすりと笑い声が洩れた。
「俺様の顔見て笑ったんじゃねーだろうな?そうなら許さねえぞ」
「ウー…ウス」
「何だその曖昧な返事は!」
怒ったような声を出してみるけれど顔は笑ったまま、わしわしと両手でこいつの頭をかき回す。
そのうち俺の歪みに気付いても、そうやって笑い飛ばしてくれよ。
「勿論、受け止めてくれても構わねぇがな」
「?」
「何でもねえ」
ぬるくなった麦茶をあおって、再び口を開く。
「もう一個食う。ソーダのやつ持って来い」
「…お腹…冷やし、ます」
「うるせーよ、いいから持って来い!!」
部屋から蹴り出されて渋々台所へ向かう後ろ姿、風鈴の音。
そいつがアイスと熱い麦茶と共に戻って来るのは数分後のこと。
暑い、ある夏の日の午後。
丸一年前に書いたものを発掘。
だらっとした夏。
2008.8.17