「よう、メリークリスマス」
「メリークリスウス」
「アーン?」
クリスマスイブ、跡部さんがお家に招いてくれた。
跡部さんのお家のツリーは豪華だから、妹も連れて来て見せてあげたいと思った。
でも、跡部さんにそう言ってみたら物凄く怒られてしまった。
一人でも十分ご迷惑を掛けるのに、妹までというのは図々しかっただろうか。
そう思って謝ると、プレゼントを用意しておくから妹は25日に呼べと言ってくれた。
…呼べ、というのは?と訊いてみたら、イブは当然泊まるんだろなあ樺地と地を這うような声で言われた。背後にオーラも見えたような気がする。
勿論すぐにウスと答えた。
妹と一緒にサンタさんを待てないのは少し残念だけど。
今年は誰がいい子にしていて、一体何を貰うんだろう。
「妹、今年は何が欲しいって?」
わざわざ取り寄せてくれたらしいおもちゃのカタログを捲りながら跡部さんが尋ねる。
「すみ、ません…毎年」
「気にすんな。俺様だって毎年サンタの想像図やらKATA叩き券やら楽しませてもらってるぜ」
「ウス…、うちでは…ドリームトーチを買ってやる、ので」
「じゃあこの…シンフォニーセット?あたりか?持ってなかったよな、確か」
「ウス」
きっと喜びます、と言ったら、絶対じゃねーのかよと頭を叩かれた。
すみませんと謝ったらまた叩かれた。
跡部さんは時々よく分からない。
「なあ樺地、お前はサンタクロース信じるか?」
多分お手伝いさんにプレゼントの用意を頼んだのだろう電話を切って、跡部さんは椅子に腰掛けたまま背伸びをした。
「…居たら…いいな、とは、思います」
だけど居なくても、親とか周りの人がサンタになってくれるのもとても素敵なことだと思うし。
「…でもな、居たところでサンタも全能じゃねえだろ。ただのおっさんだ」
「?」
首を傾げると跡部さんはテーブルに肘をつき、また口を開いた。
「プレゼントは物だけだろ?」
「…ウス」
でも、空を走るし。ただのおっさんではないと思うけど。
それともあれはトナカイかソリがすごいから走れるんだろうか。
「俺様の欲しいものは物じゃねえんだ」
物じゃないもの?
……とっくに諦めてしまったけど、そういえば自分も小さい頃に何度か考えたことがあった。
プレゼントはいらないから、なくした物が見つかりますように、とか、今度のテストではいい点が取れますように、とか、
それから、大人になるまで…大人になっても、あの子と一緒に居られますように、とか、色々。
「…だから、いい子にしてる必要もねえ。そうだろ?樺地」
その口元が、ゆっくり上がった。
どれだけいい子にしてもプレゼントには貰えないと思っていたそれが、手招く。
「俺様はこれが欲しい」
伸びてきた手が、さっきとは違って優しく、ぽんぽんと頭を叩いた。
―――間違うことなんてないと思っていたそれが、初めて嘘を言った。
サンタクロースは、全能だった。
****************
…だけど、
この日々がプレゼントなら、やっぱり、
「いい子に…していたい…です」
「何!?てめぇ…!ちょっとはムード考えたらどうだ!!!」
「?」
やっぱり、跡部さんは時々よく分からない。
跡部は樺地妹に高いプレゼントをあげて、気に入ってもらえず散々凹んだ過去があるといいと思います。
2007.12.24