空の赤さが視界の全てに広がり、長い影が重なりきらずに二つ伸びる。
俺が喋ると低い相槌。
いつもと何も変わらない帰り道、ひとつ違った。
「…あの」
風が冷たくなってきたなとか思った時に、ふいに声がした。
いや、声はしていたのだがそれは相槌のみで、こうして話し掛けて来たのは今日初めてだった。
と言うか数日ぶりじゃないだろうか。そもそもこいつから口を開く事自体が珍しい。
「何だ?」
「…お誕生日、もうすぐ…なので」
何が言いたいかは分かってる。
だが、せっかくこいつが自分から喋りかけてきたんだ。
小さく頷いて先を促すと、声が続いた。
「何か…欲しい物とか、あったら」
何ってお前、決まってんじゃねえか。
「何でもいいのか?」
「…自分に…あげられる、物、なら」
バカ、お前からしか貰えないものだってのに何言ってやがんだ。
そう言って頭をはたいてやれたらどんなにいいだろうか。
でもそれじゃ駄目なんだ。
それは望んで貰うものじゃない。
「…何がいいかな」
応えてくれるまでは別に望むものもねぇし。
黙ったまま答えを待っているのだろう後ろの奴の足音を聞きながら、
ただ、こんな日がこれからも続けばいいとだけ。
「じゃあ料理。何でもいい。お前ん家に食いに行く」
「…そんな、物で…いいん、ですか」
「ハッ、お前がくれる物なんざどれも大差ねぇよ。『そんな物』にならないようにせいぜい頑張るんだな」
口を開けば憎まれ口ばかり。
お前がくれる物なら何だっていいんだよ。
「ウス。…分かりました」
行けばきっと、大きくはないあのテーブルに所狭しと皿が並んでいるんだろう。
妹がちょっと摘み食いして減ってる皿もあるかもな。
精一杯の物を乗せてくれたらいい。
今はまだ、それは俺と同じ想いじゃなくても許してやるから。
「楽しみにしてるぜ」
とか言いつつこのまま来年再来年と流れて行くと 結局痺れを切らして誕生日に貰ってしまうと思います。(台無し)
2007.10.4