状況は、最悪だ。


あれから三日が経った。
それはあいつと三日も口をきいていないということを意味する。
鞄がやけに重く、後ろに誰も居ない寒さが辛かった。

また今までと同じようにあいつと一緒に居られるなら、あいつがそれを許してくれるなら、それはそれでいいかもしれない。
それはとても辛いことだろうが、今こうして離れているほうがずっと辛い。
ようやく落ち着いた心は そんなことを思いはじめていた。

ここ三日、あいつの代わりには萩之介と居ることが多くなった。
俺を慰めようとか、あいつとの仲を何とかしようと気を遣ってくれているのが分かる。
それがとても嬉しかったし、何より萩之介と話すと気が紛れた。


部活中、俺と打ち合いをしていた萩之介が手首が痛いと言い出した。
「湿布でも貼るかな…あ、でも救急箱高くてなかなか取れないんだよね。一緒に来てよ」
そう言い手招きする萩之介について部室に行く。
確かにこいつには少し高い、ロッカーの上にあった救急箱を取ってやり 二人ソファに腰掛けた。

救急箱を開け湿布を貼る萩之介を横目に、ぼんやりとあいつのことを考える。
今日は委員会だかで遅くなるんだったか。ったく、わざわざ忍足を通じて伝えやがるし。
しかし、それにしてもちょっと遅くないか…?


そう思った時、いきなり隣の萩之介が俺の肩に手を掛け覆い被さってきた。
気を抜いていたのと、見た目からは想像出来ない意外に強い力に驚いたのとで反応が遅れる。
「っ、な、」
「じっとしててね」
そう微笑む萩之介の手が、俺の頬に伸びる。

その時、開いたのだ。扉が。
「…!…樺地…っ」
そこに立っていたのは最悪なことに、あいつだった。

久しぶりにその名を呼ぶ。ああ、なんでこんな間抜けな声しか出ないんだ。
「いいタイミングだね」
何なんだ?こいつは、俺と樺地を何とかしようとしていたんじゃないのか?
あれは嘘だったのか?
混乱する頭で あいつに目で助けを求める。
久しぶりにぶつかる視線。
しかしあいつの視線はいつもと少し違うもので。
不安が募る。
誤解されてしまっただろうか。

助けもせず、出て行きもせず、あいつはただそこに立っていた。


もし俺を少しでも大切に思うなら今すぐ助けてくれ
もし俺を少しでも大切に思うなら今すぐ走り去ってくれ



















2006.11.15