あれから三日が経った。
あの翌日、どうするか悩みに悩んだ挙げ句、朝 いつものようにあの人の家に迎えに行った。
もしまた、今までと変わりなく過ごせるならそれに越したことはない。
そんな僅かな期待を胸にチャイムを押したが、
執事さん越しに聞いた返事は「先に行っていろ」というものだった。
昨日のことが急激に現実味を帯びる。
あれは本当に 嘘偽りないあの人の精一杯の気持ちで。
それを裏切って、傷付けてしまった。それがすごく悲しかった。
もう昨日までのようには居られないし、あの人がそう過ごすつもりもないのだと悟った。
それから今日まで、あの人とは一言も口をきいていない。
荷物も持っていないし、後ろを歩くこともなかった。
代わりに あの人の傍には滝先輩が居ることが多くなっていた。
あの人を慰めて楽にしてくれるなら、なんて 傷つけたのは自分のくせに虫のいいことを思う。
けれど少し胸が騒めく。
俺の居場所に他の人が居るから?
あの人がどこか無理をして、辛そうな顔を隠しているから?
それともあの人が、他の人と仲良くしているから?
一日の授業が終わり、普段なら部活のために着替えるところなのだが今日は委員会の仕事がある。
少し遅れる旨はきちんと部長に─―他の先輩を通じて─―伝えてあるし。
早く終わらせて部室へ向かおう。
そう思い、今日の委員会作業の中心となる三年の教室へ足を進めた。
委員会の仕事を済ませ、部室へと走る。
思ったより遅くなってしまった。
コートには部員が溢れ、休憩中ではなさそうだ。だからノックもせず ほぼ走ったそのままの勢いで部室の扉を開けた。
―─一瞬後、その先にある光景に凍りつくことになるなどと知らずに。
「!?」
「…!…樺地…っ」
久しぶりに聞く、その人の俺を呼ぶ声。こちらに向けられる視線。
その斜め上には滝先輩の顔。
「いいタイミングだね」
ふふ、と笑う焦茶色の髪の先輩は ソファに座っていたであろうその人の上半身に覆い被さり、頬に手を掛け顔を近付けていた。
見なかったことにして、逃げ出したければ逃げ出せばいい。
跡部さんが襲われている?助けたければ助ければいい。
けれど、俺はどちらにも動くことなく、ただじっとその光景を見つめていた。
何に対してかも分からない、ただようやく形の見えてきた、僅かなそれを抱いて。
2006.11.15