曇り空が広がっていた。
それが見事に俺の心情を表しているようで、滑稽で少し笑えた。
あいつに会いたくないと思ったのは初めてだ。
…いや、本当はやっぱり会いたくてたまらないのかもしれないが。
よく分からない。
ただ憂欝で、泣くのさえ面倒だということだけは確かだった。
控えめなノックの後、執事が顔を覗かせる。
「坊っちゃま、崇弘さんがお見えですが?」
この時間、いつもは玄関であいつを待っている俺がまだ部屋に居ることを不思議に思っているようだ。
「先に行かせろ。それから今日は車で行くから運転手に伝えとけ」
「…はあ、畏まりました」
執事は怪訝な顔で頷き、ドアを閉じた。
今までこんなことはなかったから、まあ当然だろう。
そんなごく当たり前の、生活の一部のようなあいつ。
けれど、その当たり前を守るために今まで押し止めていたものを、昨日告げてしまったのだ。
…今更後悔なんかしたって。
ゆっくりと腰を上げ、荷物を持って玄関へと向かった。
学園に着き 教室へ向かう途中、萩之介に会った。
…あいつじゃなかっただけましだが、今はこいつにも余り会いたくなかった。
何故なら、
「おはよう、…なんかあった?」
ああ ほら。こいつは勘が良すぎるんだ。
いや、正しくは勘でなく、人間観察力がずば抜けているのか。
俺があいつを好いていることも早いうちから気付いていたらしいし。
恋愛相談 なんて柄じゃないが、それに近いようなこともしていた、割と気の許せる相手だ。
付き合いも長いこいつには何を隠したって無駄だろうなと溜め息をつく。
「…あった」
もたつく口をゆっくりと動かし、昨夕あったことを洗いざらい話した。
「そっか…」
頷く萩之介の髪が揺れる。
状況は何も変わっちゃいないが、ほんの少し、気分が楽になった…気がする。
そこでチャイムが鳴り、萩之介は軽く手を振って教室へと歩いていったのだった。
2006.11.15