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突然のことだった。
帰り道、いつものようにあの人を家まで送り、鞄を渡した。
その時突然に、あの人は言った。
「好きだ」と。
「ずっと好きだった。今までずっと、お前だけ見てきた」
それは俺に何らかの返答を求める響きだった。
この人が俺を後輩や、友として好いてくれているのは知っていたし、俺がそれを知っていることもこの人は分かっているはずだ。
ならばその好きは他の意味を指すのだろう。
そう、例えば、…恋愛感情とか。
でも俺は男だ。そしてこの人も。
最初は何かの冗談かと思ったが、その揺るぎない瞳からそれが嘘や茶化したものでない、真意であることが伺えた。
…けれど、すぐにそれを見抜けるようになるだけの時間を共にしてきた自分が、
今までそれに気付かなかったなんてことがあるのだろうか、
小さな矛盾が生まれる。
ただ、その刺すようなそれでいて縋るような真直ぐな視線に、嘘をついてはいけない気がした。
暫し視線が泳ぐ。
出来ることならその瞳を悲しませたくはないが、嘘もつけない。
きっとその嘘は、更にこの人を傷つけてしまう。
逡巡した後、ゆっくりと口を開く。
「すみません」
目の前の碧い瞳が揺れた。
「先輩とか、友人としてはとても、誰よりも好きです。だけど、それ以上には…見られ、ません」
ひとつひとつ、言葉を発するたびに
何かを崩していくようで怖かった。
それがこの人の心なのか、今まで二人で築いてきた絆なのかは分からないけれど。
沈黙の後、その人は「そうか、悪い」とだけ言って家へと入って行った。
傷付けてしまっただろうか。
もう、今までのような関係には戻れないのかもしれないと思うと、身体が震えた。
もう今更遅いのに。
明日になればまた、笑っていてくれるといいのだけれど。
2006.11.15