後悔した。

ほんの一言、零れてしまってからはあっという間だった。
堰止めていたものが外れて
あれよあれよとすべて溢れて流れ出してしまった。

息が詰まる。
逃げ出したい、けれど足さえ動かない。

ただじっと目を見つめて、口を結んだまま。
目だって本当は逸らしたい。
今にも泣きだしてしまいそうだ。
だが、今ここで目を逸らしたら
今まで積み上げてきたものが崩れてしまう、ような気がする。

ああ、言わなければよかった、なんて
今更遅いのだけれど。

目を見開いたのち、暫し視線を泳がせていたそいつがゆっくりと口を開く。

聞きたい。聞きたくない。
耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、指の一本さえ動かない。

そいつの口から紡ぎだされた優しい低い音は、

「すみません」

と、
俺の耳を通り鼓膜を震わし脳を殴った。
そしてゆっくりと心に染み、そこをただ乱暴に、残酷に、掻き乱していった。


















2006.11.9