ガタンガタン、と一定のリズムで身体が揺れる。
あともう少し。


──今日は部活がない。
家に帰ってからの時間をどうしようか考えつつ 校門であの人を待っていた。

それから五分くらい経った頃、目立つその人は一人で校舎から出てきた。
跡部さんはいつものように 待たせたなと言って俺に荷物を預けると、続けて この後暇か?と訊ねてきた。
先程空いた時間をどうするか悩んでいたくらいだから、勿論暇だ。だから ウスと短く返事をした。

テニス場にでも行くのだろうか。今までも何度か部活がない日に二人で行ったことがある。
その可能性を踏まえて今日も一応ラケットは持ってきているし。
そんなことを考えていると、跡部さんは じゃあスポーツショップに行こうぜと言ってきた。
それから、お前ラケットの調子が悪いとか言ってただろ とも。
ああ、そういえばこの間跡部さんに言ったっけ。週末にでも行こうと思っていたんだけれど、早いのに越したことはない。

…それにしても、そんな何気なく洩らした言葉を覚えていて 気に掛けてくれていたなんて。すごく嬉しい。

そのまま二人で駅へ行き、電車でスポーツショップへと向かった。
調子が悪いのは恐らくグリップが手に合わなくなったからだと思う。だから、厚めのテープを購入しただけで用事は済んだ。
…調子が悪い、というのは少し大袈裟に言いすぎただろうか。この程度のことに付き合わせてしまって跡部さんの機嫌を損ねたんじゃないだろうか?
少し心配になって振り返ると、当の跡部さんは お前まだデカくなってんのかよとけらけら笑っていた。
それにほっとしながら 二人で店内を見て回り、再び駅へと戻って電車に乗った。

もう夕方だが、まだ混み始める前だったのですんなり座ることが出来た。
そのまま暫らく電車に揺られていると、隣に座る跡部さんが眠たそうに俯いてしまった。
そうだ、この人は部長や生徒会長の仕事で疲れているはずなのだ。特に今週に入ってから一段と忙しそうにしていたように思う。
今日は断ったほうが良かっただろうか。せっかく少しゆっくり出来る日だったのに、俺の用事で潰してしまった。
そこまで頭がまわらなかったことを後悔し、同時に申し訳なく思った。
けれどもそんなに疲れているなかで俺を気に掛けてくれたことが ますます嬉しくも感じた。
少しでも休んでもらおうと、俺にもたれて眠ることを勧めると 跡部さんは小さく頷いて頭を預けてきたのだった。

ガタン、と車体が揺れるたびに隣のこの人から甘い匂いが漂ってくる。
香水だろうか、それともシャンプー…?…それもあるが、どうもそれだけではないような。
心地良い香りだ。
それに日の光が反射して髪がキラキラと輝いている。
この人は本当に綺麗になった。…たまに、無骨な俺が傍に居ていいのかと不安になるくらいに。
けれど寝顔は数年前のあどけなさを残したままで、少し安心した。

そんなことを思った瞬間、カーブに差し掛かった車体が大きく揺れた。
思わず手を伸ばして跡部さんの体を支える。
すると僅かに跡部さんの肩が強張ったのが分かった。
起こしてしまったかな?と顔を覗くが、その目は閉じられたままだった。少なくともまだ起きるつもりはないらしい。


…更にまた数年すれば、きっとこの人はお家の事などで忙しくなるのだろう。
今度こそ本当に離れ離れになってしまう。
寂しいけれどそれは仕方ないことだ。
せめてその時まで、今のままこうして傍に居られたらと思う。

あと、もう少し。
















跡部さんは起きてます。心臓バックバクです。(笑)

2006.10.30